13分かけ70mまで潜る、BB弾を日本刀で斬るなど、研究進む「超人的能力」の数々
超人的な回復力:シェルパ族
「人類は今も進化しています」と言うのは、米カリフォルニア大学サンディエゴ校で、遺伝学と生理学の観点から、人間の高地への適応について研究しているテイタム・サイモンソン氏だ。その好例がネパールのシェルパ族だ。 シェルパ族は6000年以上前から、平均で海抜4200メートルほどの場所で暮らしてきた。こうした場所では、酸素の量は海面よりも約40%少ない。「長い時間をかけて自然選択がなされ、低酸素に対応する最適な方法が絞り込まれたのです」とサイモンソン氏は言う。 一般的には、人体の酸素のレベルが低下すると、酸素を運ぶ赤血球が増加する。しかし、血液が濃くなると、高山病にかかったり、死に至ったりする可能性もある。対して、シェルパ族の人々では、いくつかの遺伝子が変異し、低酸素状態でも赤血球の増加が抑えられながら、細胞内のミトコンドリアが効率よく酸素を使えるようになっている。 サイモンソン氏は、チベット人の低地での活動を調査する研究も行っており、高地に順応した彼らの強みは海面に近い場所でも発揮されることがわかっている。このスーパーパワーを研究すれば、呼吸器系や心血管の疾患によって慢性的に血中酸素濃度が低い人々を助けられるのではないかと、サイモンソン氏は考えている。
泳ぎの超人:「海の遊牧民」バジャウ族
空高く飛ぶスーパーマンや、海を自在に泳ぐアクアマンなど、スーパーヒーローたちが愛されるのには理由がある。私たちには行けない場所に行けるからだ。 フィリピン、マレーシア、インドネシアに暮らすバジャウ族は、道具を一切使わないフリーダイビングで、最長13分にわたって水深70メートルまで潜ることができる。 シェルパ族と同じように、長い時間をかけた自然選択によって、バジャウ族でも酸素を効率的に使えるように遺伝子が進化しているという。ただし、バジャウ族の方がより短時間で酸素が足りなくなるため、素早く対応できる仕組みになっている。酸素を取りこんだ赤血球を蓄える脾臓(ひぞう)が大きくなっているのだ。水に潜ると、脾臓が収縮し、蓄えていた赤血球を血流に放出する。