長渕剛の娘・文音が女優デビューを果たした感動作「三本木農業高校、馬術部 ~盲目の馬と少女の実話~」
青森県十和田市にある県立農業高校を舞台に目を患った馬と女子高校生の触れ合いを実話をベースに描いた映画が「三本木農業高校、馬術部 ~盲目の馬と少女の実話~」(2008年)だ。メガホンを取ったのは「陽はまた昇る」、「半落ち」が日本アカデミー賞の優秀作品賞などを受賞した佐々部清。主演を長渕剛と志穂美悦子の娘であり、本作が女優デビューとなった文音(旧・長渕文音)がつとめた。馬術部で担当馬・タカラコスモスの世話をする香苗を演じた文音は公開後、第32回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。インストラクターのもと毎日のように馬に乗る練習を重ね、馬術シーンにスタントマンなしで臨み、馬とともに成長していく高校生の喜怒哀楽を瑞々しい表情で演じきった。 【写真を見る】職員室で顧問(柳葉敏郎)と話す香苗(文音) キャストには馬術部の顧問として柳葉敏郎、校長先生として松方弘樹らが出演。部員たちが厩舎で馬たちの世話をしたり、練習をする日常に重きを置いたドキュメンタリータッチの構成だからこそ、その中で生まれるアクシデントやドラマがどんな教科書より尊いことを教えてくれるようで胸を打つ。そして十和田市の美しい四季の移り変わりも本作の素晴らしい演出となっている。 ■バカ馬呼ばわりしていたコスモがヒロインを変える 馬術部に所属している2年生の香苗の担当は名馬でありながら、目の病気のため引退し、三本木高等学校にやってきたタカラコスモス、愛称・コスモ。顧問の先生(柳葉)曰く、コスモの世話を任せたのは香苗自身も気が強いから。言うことを聞かないコスモに手を焼き、バカ馬呼ばわりする香苗だが、コスモが種付けに出されることを知り、内心では心配をする。 そんな時期に勃発したのが馬術部のエース・岡村との大喧嘩だ。厩舎で大会の"お疲れ様会"をしていることを皮肉られたことをきっかけに、馬たちが騒ぐほどの大乱闘に発展する。全力で男子に飛びかかっていく香苗を演じた文音の体当たりのアクションと喜怒哀楽の表情が、生命力あふれるヒロインをキラキラと輝かせている。 その後、種付けが終わったコスモが戻ってくるが「馬は人の信頼に応えようとする生き物だから」と言われた香苗は、緑鮮やかな季節も雪が降り積もる日も懐妊したコスモと共に過ごすようになる。 ■出産に涙を流し、やがて心で通じ合うバディになるコスモと香苗 苦い挫折を味わった岡村は馬術部から距離を置くようになるが、香苗を気にかけ、コスモが産気づくと、厩舎まで連れていく。部員たちが見守る中、先生たちがサポートし、香苗が鼻の頭を真っ赤にしながらコスモの頭を撫でて何度も何度も「頑張れ!」と泣いて励ます場面も文音の存在が光る。母親になったコスモは香苗が呼ぶ声に初めて反応、友達や先生や校長先生の温かさにも触れ、香苗自身も少しずつ大人びていく。 2度とない季節の中、生命の重さや切ない別れを味わう主人公を体現した本作はハリウッド映画にも出演した女優、文音の原点である。 文=山本弘子
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