「逃げ恥」の脚本家が壮大なスケールで描く社会派ドラマ「海に眠るダイヤモンド」の核心部分
差別心は変わらない?
第1回にはこんな一幕もあった。本土から端島へ逃げるようにやって来て、職員クラブのウエイトレスになった元歌手・草笛リナ(池田エライザ)が、鉱業会社のお得意様である鉄鋼会社社長の三島(坪倉由幸)に手を握られた。はね除けたところ、「たかが端島の女風情が」と罵倒される。似た話は現代にもいくらだってある。 第3回では賢将の父親で鉱業会社幹部の古賀辰雄(沢村一樹)が、賢将に対し鉄平に近づき過ぎるなと命じた。「彼らとおまえは違うんだ」。 2人は幼なじみだが、鉄平の父親は炭鉱員。鉄平自身も炭鉱会社の職員ながら地位が低い外勤だ。内勤のエリート・賢将とは異なる。その上、辰雄は炭鉱長になることが決まっている。辰雄は選民意識が強いのだろう。 野木氏というと、TBS「逃げるは恥だが役に立つ」(2016年)などエンターテインメント色の強い作品が知られてきたが、昨年は社会派色の強いWOWOW「連続ドラマW フェンス」でギャラクシー賞など権威あるドラマ賞を独占した。 「フェンス」では沖縄の米軍基地と日本が柵(フェンス)で隔てられていることを端緒に、本土と沖縄、肌の色が違う人間同士の間にも垣根があることを描いた。「海に眠るダイヤモンド」も社会派色が強い。それを踏まえた上で観ないと核心部分は見えにくい。 第3回ではこんな場面もあった。端島の食堂の看板娘・朝子(杉咲花)のもとへ賢将が足繁く訪ねる。賢将は朝子が好きらしい。それに朝子の母親・梅子(赤間麻里子)は目を細めていた。梅子は朝子に「結婚しろ」と勧めた。賢将がエリートだからである。朝子の気持ちは酌み取ろうとしなかった。 辰雄の態度が鼻につき、梅子の浅ましさを不快に思った人もいるのではないか。しかし、2人のような人物は1955年当時にしか存在しなかったわけではない。似たような考え方をしている人は今も少なくない。生きにくさを感じる人を多くしている理由の1つである。野木氏のメッセージにほかならない。 同じ第3回、映画プロデューサーを自称する夏八木修一(渋川清彦)が鉄平にこう説く。 「世界を壊すのは権力と金」 この作品のキーワードである。物語を左右する言葉を主人公が口にするとは限らない。野木作品は特にそう。 夏八木は既に映画界から放逐され、窃盗団の一味になっていた。しかし、だからといって言葉の全てがウソというわけではない。鉄平は夏八木の言葉に神妙に聞き入る。この言葉がやがて現実になることは知らなかった。 4000人以上が暮らしていた端島は1974年の閉山に伴って無人島となる。84年の歴史に幕を閉じた。島民は生まれ育った家から退去させられ、友人も知人もちりぢりになる。この作品はあらかじめ島から去って行くことが約束されている人々の悲話の記録なのでもある。 故郷が消えてしまうとき、鉄平は酷く心を痛めるだろう。賢将も百合子も朝子も。島民のコミュニティを壊すのは石炭政策を転換する国と鉱業会社である。つまり権力だ。おそらく野木氏の視野には国の政策転換によって暮らしを変えられた全ての人々が入っている。