全国男子駅伝3区 圧巻の29人抜きは「人生の勲章」 大森輝和さん(高知・香川県、四国電力)
天皇杯全国都道府県対抗男子駅伝競走大会(全国男子駅伝、ひろしま男子駅伝=日本陸連主催、中国新聞社、NHK共催)が19日、広島市中区の平和記念公園前を発着するコースで開かれる。30回目を迎える大会。古里や多くの人の期待を背負い、安芸路を彩ってきたランナーやスタッフの思いに迫る。 全国男子駅伝の各区間トップ10&ごぼう抜きランキング 安芸路に刻んだ記録と記憶は「人生の勲章」だった。第9、10回(2004、05年)で3区の区間記録を更新。駅伝強豪県ではない高知、香川から2度(第10、12回)の一般MVPに輝いた。元世界選手権1万メートルの日本代表は「『29人抜きの大森』と呼ばれることが何より自慢で一番うれしい」。広島は心の古里だった。 大学生、社会人が競う3区(8・5キロ)は「ごぼう抜きの3区」と呼ばれる。香川・高松工芸高時代を含め計10度出場し、社会人になって3区専門となった。所属先の高知・くろしお通信は創部間もない新興チーム。全日本実業団駅伝などの出場実績は乏しく、「(チームの)名前を売りたい、目立ちたい」一心だった。 5キロを過ぎ、瀬戸内海が視界に入り始める。上りのきつい箇所で沿道の人垣も少なくなり、「前を見て、選手を抜くことが原動力になった」。第9回、24人抜きで初の区間賞を獲得。ただ、一般MVPに選ばれたのは最終7区で22人抜きの区間賞を獲得した同じ高知の大島健太だった。 所属先が同じで同学年のライバルの存在が心をかき立てた。「せっかくの目立つチャンスが『持っていかれた』と思った。次は圧倒的に抜き去る」。第10回のレース前、後輩に「30人抜いてくるぞ」と宣言。29人抜きで雪辱の一般MVPに輝いた。 周囲が「(29人抜きは)大会記録」などと騒ぐと心がざわついた。現行コースとなる前の第2回(1997年)で秋田の進藤吉紀が3区で30人抜きしたことを知っていたからだ。「陸上選手なら誰しもが何か記録を残したい、持っておきたいと思っている」。2度の所属先の廃部を経験し、13年の現役引退まで記録打破に挑み続けた。 自身の持つ通算99人抜きは通算134人の岡本直己に抜かれた。3区の区間記録も第29回(24年)に大阪の葛西潤によって19年ぶりに更新された。厚底シューズの台頭でレースが高速化した現在をうらやましく思う時もある。それでも「第1回で優勝した広島の国近友昭選手に憧れて目指した大会で結果を残せた。中高生たちが『目指したい』と思える選手が安芸路から出てきてほしい」。節目の大会でのニューヒーロー誕生に期待を懸ける。 ◇ おおもり・てるかず 香川・高松工芸高、中大中退を経て、くろしお通信に入部。2005年世界選手権ヘルシンキ大会の1万メートルに出場。廃部に伴って四国電力へ移り、13年に引退した。
中国新聞社