他人の地獄堕ち見て、我が人生を直すには絶好の映画でしょう『VORTEX ヴォルテックス』『スリ・アシィ』
みうらじゅんさんの前に近々公開される映画のチラシを大量にお持ちして、グッとくるチラシを厳正にピックアップ。映画本編は観ていないので事前知識はほぼゼロ、頼りになるのはチラシ内の情報(と妄想)だけという状態で語っていただく、言いっぱなしの映画チラシ放談です。(ぴあアプリ「みうらじゅんの映画チラシ放談」より転載) 【全ての画像】『VORTEX ヴォルテックス』『スリ・アシィ』
『VORTEX ヴォルテックス』
── 今回の1本目のチラシは鬼才監督ギャスパー・ノエが新境地を開いたという『VORTEX ヴォルテックス』です。 みうら まず、このチラシを選んだのは映画監督のダリオ・アルジェントが役者で出てらっしゃることを知ったからです。 ── ジャーロ映画の巨匠アルジェントがなぜか主演なんですよね。 みうら しかもチラシには「80歳にして初主演」とありますし。 とはいえダリオ・アルジェントの監督作ではないから、あの『サスペリア』感はないかもしれません。でもわざわざ80歳にして初主演を選んで撮るギャスパー・ノエ監督の意図がとても気になりますよね。音楽がゴブリンとかじゃないですよね? ── まだ観てないんで、可能性はゼロではないと思います。 みうら 「映画史上最も静かな地獄堕ち」とも書いてありますよね。やはり、ホラー映画なんでしょうか? ── これは観た友だちから聞いたんですけど、ずっと画面が2分割らしいんですよね。 みうら 画面が2分割ですか? 僕らの世代の2分割というと、やはりレッド・ツェッペリンの映画『狂熱のライブ』ですけどね(笑)。この映画もその影響はあるんでしょうか? でもまあ、この映画はずっと2分割画面で進行していくってことが新しいですねぇ。 なるほど、ピンときましたよ。仏教では人間が死ぬと十王に四十九日裁かれるんですけど、生前の良い行い悪い行いが浄瑠璃の鏡に映し出されるんですね。それを見て極楽行きか地獄行きか判断されるんです。けど十王の1番初めに秦広王っていう方がおられてね、嘘をついてようが「あ、そうなんだ」って軽く聞き流すらしいんですよ。 一応アドバイスしときますけど、その秦広王は分かっていながら亡者が言うことをとりあえず全部鵜呑みする。でも、それがチェックポイントなんです。そこで嘘をついたら、罪が超過されるんですよ。 ── 死んでからでも罪って上乗せされるんですね。 みうら 気を付けてください(笑)。最終的には浄瑠璃の鏡に映されてバレますんで、やはりここは正直に本当のことを言った方が賢明です。 つまり、この映画の2分割とは浄瑠璃の鏡のことでしょう。この老夫婦の生前の行いが2分割で映されるんでしょうね。 それを静かに裁かれて、どちらが最もキツい地獄に落ちるのか? それを争うVSモノだと僕は考えます。 ── チラシにも「地獄堕ち」って書いてますもんね。 みうら きっと、チラシに写ってるこのふたりが棺桶に入れられるところから始まるんでしょう ね。そこからふたりは死出の山を登り、ようやく辿り着いたところで四十九日行われる裁きをドキュメント風に描くのでしょう。 あくまでそれは老夫婦が仏教徒であるという設定ですがね(笑)。一体、これはどこの国の映画ですか? ── フランスです。フランスの人はオリエンタリズムも好きですもんね。 みうら つーか、日本ではフランスを漢字で表すときに“仏”って書きますからね(笑)。 ── あ、ホントですね! みうら 日本には有名なところでは中川信夫監督の『地獄』があります。地獄の責め苦のとこにやっぱりお金がすごくかかると思うんですよね。でも今回は裁判映画なんで、大してCGとか使わなくても大丈夫です。 あと上映時間が148分もあるみたいですけど、老夫婦の生前の行いが浄玻璃の鏡に映し出されますから、時間はいくらあっても足りないくらいですよ。長年暮らした夫婦でもお互い知らないことはいっぱいあるわけで、観客はハーフ・アンド・ハーフで楽しめるんだと思います。他人の地獄堕ちを見て、我が人生を直すには絶好の映画でしょう。