『ブギウギ』愛助との別れを経て スズ子が向かう本当の“ズキズキ”と“ワクワク”
再び羽鳥(草彅剛)の歌がスズ子(趣里)に前を向かせる
しかし、一度観た場面も今回は感じ方がずいぶん違ってくる。母・ツヤ(水川あさみ)と弟・六郎(黒崎煌代)、そして愛助を亡くした。ツヤの死は花田鈴子から歌手・福来スズ子としてさらに東京で羽ばたく転換期に、六郎の死は戦時中に規制を受けて見失っていた歌手としての成長に繋がっていたのが印象的だったが、今回の愛助の死も例に漏れず歌手としてのスズ子の新たな指針になるだろう。 「つらいことがあったら、歌ってください」 〈楽しいお方も、悲しいお方も〉に始まる「ラッパと娘」のように、彼女の歌には悲喜こもごもが詰まっている。それは作曲を行う羽鳥善一(草彅剛)がこれまでも彼女の感情の揺れにいち早く気づき、スズ子が歌うことで前を向いて進めるような曲を作ってきたことを意味する。母の危篤の知らせを受けても舞台に立ち、弟を失って「ラッパと娘」が歌えなくなったスズ子に、いつも案じるような視線を向けていた。彼は彼女に“悲しむこと”を受け入れさせてきたとも言える。今回も、愛助の死を乗り越えるために羽鳥は「ドキドキ ワクワク」ではなく「ズキズキ ワクワク」であることの大切さをスズ子に教えてくれるのだろう。そして今の彼女だからこそ、「東京ブギウギ」が開花するのだ。
ANAIS(アナイス)