「役所仕事の大失敗や」 神戸・新長田“震災復興”30年の終焉に、誰も喜ばないワケ! 再開発が抱える深刻問題とは
市役所の暴走が招いた失態
今では典型的な 「再開発の失敗事例」 に挙げられているが、実態はどうだったのだろう。市は完了のめどが立ちつつあった2020年度、有識者会議を設置して事業を検証した。報告書には大急ぎで進めた復興事業のさまざまな問題点が浮かび上がる。 ・事業が長期にわたったこともあり、市の金利負担が大きくなったうえ、地価下落の影響を受けた ・再開発ビルの設計中や整備中に転出が相次ぎ、空き区画の増加につながった ・商業施設を地下から地上2階までの3層構造にしたことで規模が過大になり、歩行者の動線が分散した ・共用区画を多くとった施設構造が管理費の増大を招き、転出のきっかけになった -などだ。 新長田駅周辺は1965(昭和40)年の市総合基本計画で市西部の副都心と位置づけられたが、商店街や住宅、工場が密集した古い下町のままで、機能を発揮できる状態でなかった。市は復興を機に一気に副都心化を図ろうとして、地権者と十分な意思疎通のないまま、見切り発車で事業を進めた。 古い下町の商店街は都心部並みの豪華な施設に変わったが、多くの店主が心ならずも商店街を去った。残った店主も高い管理費に苦しみながら、商売を続けている。本当にこれが復興といえるのだろうか。大正筋商店街の店主の妻は 「身の丈に合った計画にすべきやった。高い管理費を支払って商売する価値はない」 と不満をぶつける。別の店主は 「市は『任せとけ』の一点張りで十分な話し合いがなかった。役所仕事の大失敗や」 と語気を強めた。
交通整備も誤算の連続
副都心にするための交通整備も誤算が続く。市は住民からの要望を受け、新長田駅への快速列車停車をJR西日本に要望してきたが、色よい返事は返っていない。ホームが短く、8両編成の普通列車を停車させるのがやっとだからだ。市交通政策課は 「今も要望を続けている」 とあきらめていないが、駅の東側は新快速などが走る線路と普通列車が通る線路が立体交差し、西側はすぐ近くを幹線道路が通る。快速停車には一から駅を建て直すほどの大工事が必要だ。 市営地下鉄は西神・山手線と海岸線の2路線が新長田駅に乗り入れている。しかし、海岸線は開業から20年以上赤字続き。新長田駅のJR乗車人員は2022年度で約740万人。長田区で最も多いが、3路線がつながる潜在能力を発揮できていない。 市は噴水がある駅前広場にバスロータリーを整備し、路線バスを集約する計画を立てていた。2023年度予算に設計費約1億2000万円を計上したものの、市民の反対で見送りに追い込まれている。 空き区画の売却、商店街の活性化、地下鉄海岸線の利用促進など市が取り組まなければならない課題は山積している。市地域整備推進課は 「引き続き新長田の街づくりに取り組む」 と述べたが、大正筋商店街に活気が戻るめどは立っていない。
学生の力で新たな展望
ただ、最後に明るい話題が飛び込んできた。10月に完成した44棟目の新長田キャンパスプラザだ。 ・兵庫県立衛生学院(看護師、助産師、歯科衛生士を目指す人々のための専修学校) ・兵庫県立大学 ・兵庫教育大学 が入居し、学生ら約1000人が地区に通う。空き区画を若者が集う場所に変えることができたなら、大正筋商店街に新たな展望が開けるかもしれない。
高田泰(フリージャーナリスト)