スマブラ最大級のコミュニティ大会は、驚異の運営力で支えられていた 「ウメブラSP11」に見た“本来のゲーマー”の姿
eスポーツという言葉が珍しくなくなり、最近は『ストリートファイター6』をはじめとした格闘ゲームの人気も出てきて、配信や動画でも多く見かけるようになった。そんなコンテンツをもっと楽しもうとするときに出てくるキーワードが「コミュニティ」だ。 【写真】ボランティア運営で大盛況の『ウメブラSP11』の様子 格闘ゲームのコミュニティは、プレイヤーたちだけでなく大会の運営や観客も含んでシーンを愛する人たちを総称することが多い。そのなかでも規模と歴史を誇るのが、知る人ぞ知る大会であり、「大乱闘スマッシュブラザーズ(通称:スマブラ)」シリーズを用いる『ウメブラ』だ。 今回、10周年を迎えて開催された『ウメブラSP11』に招待されたので、コミュニティの魅力があふれる大会の様子や、驚くべき運営能力をお伝えしたい。 ■『ウメブラ』ってどんな大会? はじめに『ウメブラ』について簡単に説明しよう。大会名は、主催者・うめき氏とスマブラから取られた語呂となっている。コミュニティ主導の有志大会として2014年1月に初めて開催され、現在は東京エリアを中心としたオープントーナメント『ウメブラSP』を開催、スマブラシリーズの競技シーンを追求するトーナメントブランドとして、国内だけでなく海外でも認知されている。 ……と、オフィシャル的な面をお伝えしたが、格闘ゲームコミュニティをある程度知る人にとって『ウメブラ』はスマブラ界の雄、話題に挙がれば「ウメブラはスゴい」と言われるほどだ。筆者の伝え聞いた限り、 ・1000名規模のオフライン大会を年に数回開催している ・それだけのプレイヤー枠が瞬く間に埋まってしまう ・この規模のオフライン大会が2日間、3日間開催でも円滑に運営される ・大会はすべてボランティアによって運営されている ・先日の『EVO Japan 2024』では、スマブラ勢スタッフも協力して5000人規模の『ストリートファイター6』部門運営を支えていたらしい など、驚くべき内容ばかりだ。ちなみにNintendo Switch版『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』は2018年12月7日発売、2021年12月に最後のアップデートが行われた。そこから2年と9か月が経っているわけだが、今回の『ウメブラSP11』も大盛況で勢いにかげりはまるで見られなかった。 ■設営時点から感じるコミュニティ感 『ウメブラSP11』の会場である東京都立産業貿易センター浜松町館には朝早くからスタッフたちが集まり、対戦台・ステージ・配信ブースなどの設営が行われていた。 その様子を眺めて驚いた点は、イベント設営によくある大声が飛び交う風景や、指示者と現場が明確に分かれるようなシーンがあまり見受けられなかったことだ。良い意味でまったりと一人ひとりがやるべきことを理解して作業を進めている。 そしてもうひとつ特徴的だったのが、参加者によるSwitch本体の持ち込みだ。モニター等は運営側が用意しているが、対戦台などに設置される154セットのSwitch一式は「持参枠」と呼ばれる参加者によって用意されていた。持参枠だと参加費が1,000円引き、さらに学生は1,000円引きといった参加者への配慮もあるものの、参加者がゲーム機本体を持ち込むという姿はeスポーツ大会ではほとんど見られない。 昨今ではゲーム機本体の価格も高騰し、PCが主なプラットフォームとなっている格闘ゲームもある。この状況はゲームのオフライン大会にも大きな影響を与えており、多台数を必要とするオフライン大会開催の困難さやプラットフォームのバラツキによるプレイヤーへの負担が発生している。そういったなかで、ウメブラがコミュニティ大会として理想的な運営を行っていることがうかがえる一面だった。 なお、後のスタッフインタビューで触れるが、『ウメブラ』だけがスマブラのコミュニティ大会ではない。規模の差こそあれ、同じように大会を開催しているスマブラや格闘ゲームのコミュニティは全国に存在しており、そのひとつとして『ウメブラ』を取り上げていることを注釈しておく。 ■自分たちが作り上げる大会だからこそ熱くなれる 格闘ゲームのオフライン大会は、ダブルイリミネーション方式(※)のトーナメントで行われることが通例となっている。必然的にスタート段階の参加者が最も多く、進行につれて選手や試合数も絞り込まれていく。だからこそ大会初日は多くのプレイヤーで会場があふれかえり、各所で見られる対戦を生で観戦できるのがオフライン会場の醍醐味だ。 ※敗者復活のある変則トーナメントで2敗した時点で敗退が決まる。0敗で勝ち進んでいるサイドをWinners、1敗でまだ敗退していないサイドをLoosersと呼ぶ。 誰もがスマブラというゲームが好きで参加しているコミュニティ大会だが、いざ試合となれば競技者としての顔つきに変わり、モニターに送られる視線は真剣そのものだ。そしてプレイや試合結果に対する喜怒哀楽があらゆる場所から発生し、それが大会自体の熱量となってボルテージを上げていく。 喜びを爆発させる勝者、悲哀にうなだれる敗者、そして互いに握手やフィストバンプで健闘をたたえ合う両者。勝ち負けという非情さがあればこそ想いは強くなり、当人たちだけでなく応援する者たちの心も熱くする。日常生活ではなかなか得られないこういったシーンを見られるだけでも、オフライン大会観戦の価値が感じられるだろう。 そんな対戦がくり広げられるなかで、ひとつ面白い風景が見られた。それは、試合結果の報告や進行のシステムだ。 大会ならば試合結果の確認やトーナメントへの反映は重要だ。そして大規模な大会ほど管理は難しい。これを『ウメブラ』では「選手たちが試合結果をシートに直接書き込む」という形式で行っていた(大会が進行して試合が絞られてきたらスタッフが担当)。 規模の大きい格闘ゲーム大会でよく見られるのは、審判を担当するスタッフがトーナメントシートに結果を記入し、対戦ブロックの進行や運営への報告を行う方式だ。しかし『ウメブラ』の場合、シート記入までは選手たちが自主的に行い、それをスタッフが参照してトーナメント管理ツールに入力するという分担をしている。これにはコミュニティの分担意識や信頼感が強く感じられた。 ■eスポーツ大会と比較しても遜色ない運営の数々 先にぶっちゃけてしまうと「遜色ない」という言い方はやや失礼で、むしろ『ウメブラ』が先行してeスポーツと呼ばれるゲームの大会や配信が盛んになった現在をリードしてきた側面もある。 もちろんゲームメーカーによる公式大会や多くのスポンサーを獲得している大規模イベントと比較すれば、その規模や予算でかなわない点も多い。だが、一般の方が『ウメブラ』の大会運営や配信のクオリティを見たとき、ほかのeスポーツ大会との差は感じにくく、非営利のボランティアによるコミュニティ大会とは気付かないだろう。 たとえば配信関連では、日本語チームが2つ、英語チームが1つの計3チームが担当している(※)。初日から配信は行われており、2日目TOP8以降になると対戦台スペースが観客席に切り替えられ、参加者たちが試合を応援する会場へと変わる。 ※日本語はEGS(East Geek Smash)と無明遊者の2チーム、英語はVGBC(VGBootCamp)の1チーム。 巨大スクリーンを前に壇上で戦う選手たちと、1プレイごとに声をあげる参加者たち。その応援の熱量はすさまじく、『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』ではゲーム内効果音として歓声が発生するのだが、それを上書きするような本物の歓声が会場を包み込む。この地からわき上がるような盛り上がりは、ぜひ読者のみなさんにも体験してほしいほどだ。 優勝者が決まり表彰式を経て大会が終了する様子も、洗練されながらもコミュニティを感じさせるものだった。 終了とともに流れるアナウンスに従って、参加者たちは自ら後片付けを行う。そして終わりを惜しむような交流シーンを経て客出しが行われ、残ったスタッフたちが撤収作業に入る。複数日にわたって働き続けたスタッフたちも疲労を感じさせない様子で机や椅子を格納していき、気付けば会場は設営前の姿へと戻っていった。 祭りの後を感じさせる撤収風景にはオフラインイベントならではの趣があるが、そこには延長せずきっちりと大会を終了させる運営スタッフの意識の高さも感じられた。 ■運営スタッフに聞く、『ウメブラ』の凄さとは? 大会開催中、忙しいにもかかわらず運営スタッフの方々にコメントをいただいた。特に最後に掲載している運営の主幹を担うアユハ氏には深く丁寧にコメントをいただいたので、彼らが何を思い、どんな意識で『ウメブラ』を運営しているか、耳を傾けてほしい。 ■ぶれどん氏 『ウメブラ』では列整理やゲスト対応、Discordの質問対応などを担当。コミュニティ大会の運営が好きで、スマブラやほかのゲームの対戦会の運営や主催も経験している。 ――なぜ『ウメブラ』のスタッフをやろうと思ったのですか? ぶれどん:いろんな大会のスタッフをやっているとき、「スマブラコミュニティに768名の枠が数十秒で埋まる大会がある」と噂を聞き、それが『ウメブラ』でした。伝手をたどり「勉強したいのでスタッフをやらせてもらえませんか」とお願いしたらOKをいただきました。そこから始めて楽しかったので、いまもスタッフを続けています。 ――実際に『ウメブラ』のスタッフをやって感じられたことは何でしょうか? ぶれどん:選手もスタッフも関係なく、全員が「自分ごと」として大会を盛り上げていこうとする空気を強く感じました。選手たちが予選を自分たちで回していたり、スタッフがやりたいことや改善したいということを自発的にやったりしているところなどです。 ――設営風景を見ていると、スタッフが緩やかながら自発的に動いているのを感じました。 ぶれどん:事前にDiscordなどで連絡が行われ、設営責任者による指示書なども作成されています。また、こういった大会は『ウメブラ』以外にもたくさんあるので、机の並べ方やモニターの組み立て方などもスタッフたちが分かっていて慣れていることも多いですね。 ――ほかの大会のスタッフもされている方が多いのですか? ぶれどん:そうですね、特に若い方は兼任していることが多いと思います。やる気も体力もあるなかで選択肢も多く、一人で3~4団体のスタッフをやりながらそのうちのひとつは主催している、という方もいます。スマブラコミュニティは小中規模も合わせて大会が多く、そこで経験を多く積み現場だけでなくマネージメントも身に付けられるのではないでしょうか。スマブラコミュニティがうまくいっているのは、こういった大会の多さを最大限に活かしていることなのではと感じます。 ――『ウメブラ』のスタッフをして何か得たものはありますか? ぶれどん:スタッフや主催が無理しないシステムでも大会を運営できる、ということを経験して体感できたことです。有志のコミュニティ大会ならば理論上は可能だと思うのですが、結果的に運営側と選手や参加者側が分離してしまうことがよくあります。技術・知識・意欲の差もありますし、選手たちも大会で勝ちたいので試合に専念したくなります。スマブラコミュニティや特に『ウメブラ』は、そこの境界が良い意味であいまいだと感じます。 ――スタッフとしての能力を身に付けるのは、経験の要素が大きいのでしょうか? ぶれどん:そう感じますね。ある意味、接客業のようなものだとも思います。コミュニティ大会なので参加者はお客様ではありませんが、お願いや交渉など人対人の面では現場の経験が必要です。先ほど話したような数多くの大会に参加することで成功や失敗を重ねていくと、たとえば「あのベテランスタッフは、なぜこういう指示を出したのだろう」というのも理解できるようになっていきます。 ――スタッフの立場から『ウメブラ』の魅力やすごさを伝えるとすれば何になるでしょうか? ぶれどん:みんなが「やりたい」「楽しみたい」「がんばりたい」と思うことを、いろいろな立場で達成しやすい場所だと思います。スタッフだけでなく、選手でも「優勝したい」「初日を突破したい」「配信台で活躍したい」などいろんな目標が立てられます。 ほかにも希望すれば出演できる配信の実況解説、有志による試合とは別のブース参加、観客としての応援や写真撮影など、スマブラコミュニティや『ウメブラ』を通して、自分のやりたいことを達成してもらえればよいのではと思います。 ■キッチン氏 『ウメブラ』で配信を担当するEGSの一員。大学2年生でEGSに入りまだ半年ほどだが、リプレイなどを担当している。 ――こちらのEGSでは何人ほどのスタッフで各員がどんな仕事を担当しているのですか? キッチン:今日は4人ですが、通常は5~6人になります。カメラや配信ソフトなどそれぞれ得意な人はいますが、明確には分かれていなくて各自が準備して担当しています。 ――EGSは『ウメブラ』とは別組織で運営している会社なのでしょうか? キッチン:別組織ではありますが、単なる団体で会社や法人ではありません。みんな好きでスマブラの配信をやっている人間の集まりで、仕事として報酬をもらっているわけではありません。 ――配信となると特に専門的な知識や技術が求められると思いますが、どうやって身に付けているのですか? キッチン:ふだんからそういった仕事をしている人もいますが、自分は周囲の先輩たちにソフトの使い方など教えてもらいながら配信しています。流れとして元からいた人から教えてもらい、自分ができるようになったら次の人に教える、といった感じで技術を身に付けていきます。 ――将来的に大会運営や配信、eスポーツ関連の仕事をしたいとお考えですか? キッチン:eスポーツ業界に興味はあります。こういった配信の体験などは大学に通っているだけではできないので、いろいろなスキルを身に付けて将来に活かせればいい、と考えています。 ――配信スタッフをしている立場として、『ウメブラ』のすごさはどこにあると思いますか? キッチン:やはり選手の多さですね。配信台も多く、ほかのeスポーツ大会と比べても『ウメブラ』は最大規模レベルだと思います。強い選手たちが集まり海外から参加する選手がいるのも『ウメブラ』の強みだと思います。 ■アユハ氏 『ウメブラ』を運営する一般社団法人『令和トーナメント』の理事であり、イベント運営の主幹を担う。配信技研(※)の取締役、iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授を務め、「ゲーマーの専門家」として特にライブ配信や大会運営、コミュニティに関わっている。 ※会社名「配信技術研究所株式会社」。ライブ配信データ解析ツール「Giken Access」をリリースし、ライブ配信・大会運営・eスポーツのアドバイザリーなどを行う。アユハ氏は主に文章や思想の部分を担当している。 ――『ウメブラ』との関りについてお聞かせください。 アユハ:もともと自分はスマブラ勢からスタートしており、そこでTwitchに呼んでいただいて現在に至ります。スマブラの大会運営を続けてきましたが、ここまで続くとは正直思っていませんでした。以前は配信などいろんなことに手を出していましたが、いまはそれほど多くありません。私より下の世代がEGSや無明遊者といった配信団体で自走しています。 ――2020年以降、コロナ禍から『ウメブラ』はどのような変化をたどってきたのでしょうか? アユハ:『ウメブラ』は今年で10周年になりますが、「ウメブラは本来のゲーマーの姿を残している」と自分は謳っています。ゲーム会社の公式大会や派手な企業イベントが多い現在、『ウメブラ』は古いやり方を続けている一方でコロナ禍以降はだいぶ改革に乗り出した大会です。古い姿を残しつつ現代的なところもある大会と言えるでしょう。 たとえば大会参加費の事前決済やキャンセル手数料の徴収は、こういった非公式大会での導入は少ないと思います。スタッフの世代交代を進めていることも改革のひとつですし、有志によるブース出展なども『ウメブラ』がやり始めたことですね。 コロナ禍以降はほかのコミュニティ大会も台頭してきたので、自分たちがスマブラ界隈でできること、自分たちが身を切ることでほかの大会運営が楽になるようなことを率先して行ってきました。 ――『ウメブラ』はコミュニティ大会のフラッグシップを目指しているのでしょうか? アユハ:フラッグシップと言うよりは、若い大会がスマブラ界隈の盛り上がりや視聴者の多さをアピールしている一方、『ウメブラ』は焦る必要のない腰の重い運営ができる大会です。なので、「ほかの大会も導入してね」といったことを行っています。 ――「eスポーツ元年」と繰り返し言われた時代より前から開催してきた『ウメブラ』ですが、最近のeスポーツの盛り上がりに対して『ウメブラ』はどういったスタンスをお持ちなのでしょうか? アユハ:『ウメブラ』には、視聴者・ファン・eスポーツチーム・プロゲーマーが自発的に参入してくれます。そういった方々はeスポーツと比較をするので、私たちも意識しないわけにはいきません。 『ウメブラ』は2014年初開催ですが、スタッフ陣は以前から関東にあった大会運営を引き継いでいるので、系譜自体はおそらく2008年ごろからになります。そのときからある“モニターは運営が用意して、ゲーム機は参加者が持ち寄る”といった方式は、昔のいいところと言えるでしょう。一方、会場の写真撮影を自由にしたり配信台が3つもあったりなど、『ウメブラ』にはeスポーツ的な新しい面もあります。 映像クオリティやホスピタリティで比較される部分はありますが、良いものは維持しつつ新たな良いものも取り込んでやれることをやっている感じです。 ――昨今のeスポーツ大会とコミュニティ大会である『ウメブラ』の大きな違いを挙げるとすれば何でしょう? アユハ:分かりやすい面では、みんなが好きでプレイしにくる参加者であることでしょう。今日ここに来ている人たちは全員戦闘員なので、勝ち上がるために自分の意志で参加しています。告知も参加者たち自らが行い、気合の入った写真を撮っている方もいます。 私たちが誘導やアテンドをしているわけではなく、参加者は自主的に来て自主的に戦い自主的に帰ります。試合では島(対戦ブース)ごとに戦っているので、そこはフラクタル構造のように一人一人が物語を持って戦っている場所です。 やや分かりにくい面で言うと、『ウメブラ』は多くの大会のひとつに過ぎません。もし公式大会があれば、「この大会が偉い」「この大会に強い人が集まる」と明確になります。一方、スマブラの公式大会は存在こそしますが、いつ開催されるか分かりません。 そういった状況で、非公式大会が主流なスマブラ界隈でゲーム会社のお墨付きをもらって一番とされている大会はありません。福岡、大阪、東京などいろんなコミュニティ大会があり、大会同士が競い合っているところが面白いですね。 ――運営スタッフはどれくらいの数でどのような業務を担当しているのでしょうか? アユハ:アクティブでおよそ80人です。まず、会計と受付を担当するスタッフがおり、入場料の徴収や経費の管理などを行っています。 次が進行です。格闘ゲーム大会に参加経験がある方ならばStart.gg(※)などご存じだと思いますが、トーナメント進行を管理します。今大会の場合、予選では1024名の選手が試合結果を自主的にシートに記入しますが、それを受け付けてトーナメント表に入力していくスタッフがいます。そしてトーナメント表は事前に作成する必要があり、シーダーというシードを振るアルゴリズムのプロとも呼べる人たちが準備をしています。 ※オンラインでトーナメント表を作成し、リアルタイムにトーナメント進行を管理できるツール(Start.gg スマブラSP11)。 人員としては上記2つが多く、ほかには設営があります。今回からスタッフ内の設営人員だけでなく外部の大学生も要員に加わっており、これも先ほどの新たな取り組みに挙げられるでしょう。また、デザインチームがもっとも長く大会の手前から準備しており、大会のさまざまなクリエイティブに携わっています。 そして3つの配信チームが別組織として動いています。おおまかに分けるとこういった分類になります。 ――『ウメブラ』のスタッフはボランティアながら専門性を持った優秀な方が多いと聞きます。 アユハ:そういう人“も”います。たとえばCAD(設計支援ツール)が使える人などは、さすがにそうですよね。しかし、そうでないスタッフも多くいます。それで言うならば、大会運営そのものが専門スキルと呼べるでしょう。能力が高いというよりも単純な大会経験の多さですね。ほかの大会にスタッフや選手として参加している人も多く、ときに比較して考えながら洗練されている部分はあると思います。 ――先ほどご紹介いただいた一般社団法人『令和トーナメント』はどのような理由で立ち上げられたのでしょうか? アユハ:一番大きいのは会場確保のためです。東京は使用できる会場が少なく、たとえばベルサール(※)などがありますが使用料も高くて借りることはできません。そして、ベルサールや東京流通センターなどは法人でなければ借りられません。今回の会場である東京都立産業貿易センターや大田区産業プラザ(PiO)は法人だと1年先まで予約可能で、個人だとそれより直近でないと予約できません。法人の方が借りられる会場が増える、先まで予約ができるといった点で圧倒的に幅が広がるんです。 ※住友不動産が展開するイベントホールや貸し会議室などの施設。新宿・神田・飯田橋など都内に多くの施設を持つ。 ――最後に、『ウメブラ』を知らなかった人やeスポーツ観戦を始めたばかりのような人たちへ、『ウメブラ』のすごさや魅力をお伝えいただけますか? アユハ:最近、瀬戸風味さん(※1)とお話しする機会があったのですが、『ストリートファイター6』の公式プロリーグ「SFL(※2)」の以前と以後で観客の性質が異なるとお聞きして、そういう見方もあるのかと思いました。 ※1:格闘ゲーム大会やプロシーンを追いブログ・Xポストの投稿、配信などを行っている方。 ※2:CAPCOMの対戦格闘ゲーム『ストリートファイターシリーズ』を使用した公式チームリーグ戦「ストリートファイターリーグ」。 「SFL」以降からeスポーツ観戦をしている人に、『ウメブラ』の魅力をお伝えすることは正直難しいかもしれません。そういった方々には「ぜひ写真を見てください」と言っています。フォトグラファーの人たちが撮ってくれた大会の写真が多く公開されていますので、それを見てもらえれば何となく分かると思います。 壇上の選手だけでなく、今回ならば1024人の選手たちが戦って勝ち負けに対して表情の濃淡をあらわし、それを見守る観客たちもいます。そういったいろいろな角度や視点から撮られた写真がいっぱいあるので、ぜひ見ていただければと思います。 ■取材を終えて これまでいくつかのeスポーツ大会やパブリックビューイングを取材してきたが、『ウメブラ』は最も自然で最も熱量が高いイベントだった。スマブラや格闘ゲームに限らず、ゲームの大会やイベントに少しでも関心があるならば、一度はオフライン参加(観戦のみもOK)や配信・動画視聴をしてほしい。 そして大会としての完成度の高さに驚き、これがコミュニティ大会であることにも驚き、さらにスタッフたちの言葉から培われてきた歴史と高い意識を感じられたことも収穫だった。いまではコンテンツとしてeスポーツ大会やストリーマー配信を楽しむことが自然になった。それを過去から支えてきて現在も発展し続けている『ウメブラ』をはじめとしたコミュニティ大会があることも、ぜひ覚えておいてほしい。
じく