お金があるのに窃盗へ至る“ゆがんた節約心”とは… 「高齢者の万引き」が増え続ける身につまされる理由
統計でも明確な高齢者万引の増加と高い割合
こうした状況を念頭に、全国万引犯罪防止機構が2020年6月に公開した「全国万引対策 実態調査報告書」内の「全国の万引き検挙・補導人数の年齢構成別割合推移」(警察庁統計)をみてみると、より生々しく数字が目に入ってくる。 2004年に39%だった少年万引犯の割合は年々減少し、2019年には13.6%に。一方、高齢万引犯の割合は、同17.1%から同38.3%に増加している。2012年前後に高齢者の万引き割合が若者の万引き割合を抜き、以降増加を続けている。 とくに高齢女性の割合が高く、50歳以上が過半数を占めている。県によっては高齢者万引き割合が全体でも5割を超えるところもある。 2023年(11月まで)の警察白書では少年万引きの認知件数が1119件増と前年比37.3%と急増しているものの、大きな傾向は変わらない。 同報告書では高齢者の万引きについて、『防止には警察と自治体の連携、地域でもコミュニケーションが必要だが、学校という規範意識醸成の場がある少年の万引き防止対策とは違い、効果的な対策はとれないところである』と対策の難しさを記している。
”万引研究者”は万引き対策に消極的な店に苦言
伊東氏と連携し、万引きの研究を続ける香川大准教授の大久保智生氏は、店舗側の万引き対策として、目先にとらわれず、消極的な姿勢も正す必要があると、次のように指摘する。 「万引きは言い訳ができてしまう犯罪。例えばセルフレジ不正の場合には『操作を間違えました』『スキャンしたつもりだったが音が聞こえませんでした』『操作に馴れていない』 など、店員から指摘されても一度はごまかせてしまいます。だからこそ、いかにして言い訳できない店舗環境を構築するかが肝なんです。セルフレジ導入やマイバッグはこうしたことに完全に逆行しています」と力を込める。 万引きを行ってしまう原因のひとつとされ、診断されると減刑の可能性もあるクレプトマニア(盗症、盗癖)についても懐疑的だ。 「研究(※)で盗癖の『ふり』をしている人がいることが示唆されています。精神科医へのアンケート調査では、約8割が『診断が難しい』と思っており、約9割が『責任能力があると思う』と回答しています。つまりクレプトマニアも万引きの“言い訳”に利用されている可能性があるんです」。 大久保氏は研究者の視点で、本質的な万引き対策として重要なのは人材の育成だという。 「『ある程度万引きされても仕方がない』ではなく、万引きを抑止できるような接客のできる人材を育てること。それが、言い訳の余地を潰し、店内に活気を生み、結果的に売り上げにも貢献することにつながるんです。それを認識し、そこにしっかりと目を向けてほしいですね」 万引き犯のアフターケアにも力を入れる伊東氏は最後に、「違法車両の確認事務や取り締まりを警察官に代わって行う駐車監視員がいます。あれの万引き版みたいなものあれば、抑止につながると思いますけどね」と、やはりマンパワーの重要性を訴え、より実効性の高い案を提案した。 ※「高齢者を対象とした万引きの再発防止プログラムの開発およびその効果の検証」(https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-17K04421/17K04421seika.pdf)