【問う 時速194km交通死亡事故】注目される現行法での危険運転の解釈 大分地裁で5日に初公判、計6回審理へ 判決は28日
大分市で2021年2月に時速194キロで車を運転して死亡事故を起こしたとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致死)の罪に問われた被告の男(23)=同市=の裁判員裁判は5日、大分地裁で始まる。法定速度を大幅に上回る猛スピードの事故に適用されない裁判例がある中、法務省では条文見直しの議論も起きている。現行法が大分の事故でどう解釈されるか注目される。判決は28日。 関係者によると、被告側は「危険運転致死罪は成立しない」と争う方針。 大分地検は、同罪の対象となる(1)制御困難な高速度(2)妨害運転―の2類型に当たると主張する。地裁は双方または、いずれかに該当するかどうかを判断する。 法学者や過去の裁判によると、「制御困難」は事故前の走行状況などが焦点となり、150キロ近くで認定されなかった事例がある。「妨害運転」は幅寄せなど「あおり運転」を想定した規定で、大分市の事故のような直進車と右折車の事故で認められた前例はないという。
審理は15日までに計6回開く。法定速度の3倍を超える194キロの危険性などについて、複数の証人が出廷し尋問を受ける予定。 地検は同罪が認定されない場合に備え、法定刑の軽い過失運転致死罪を予備的訴因にしている。 事故を巡っては、地検が当初、過失運転致死罪で起訴し、その後に危険運転致死罪に切り替えた経緯がある。危険運転致死傷罪の曖昧な運用を浮き彫りにするきっかけとなり、他県でも同様の事例が起きていることが明らかとなった。法務省は今年2月から、条文に「法定速度の○倍以上」といった文言を新たに入れて、要件を明確にできるかどうか検討を進めている。 初公判は午前10時に開廷する。地裁は午前8時50分から20分間、傍聴整理券を配り、多数の場合は抽選をする。
■遺族「どう裁かれるか見届ける」
悲惨な事故から3年8カ月がたった。「弟を奪った事故がどう裁かれるのかを見届ける」。初公判を前に、亡くなった男性の姉(58)が10月中旬、心境を語った。 法定刑が懲役7年以下の過失運転致死罪を適用した大分地検に対し、「納得できない」「過失の事故ではない」と声を上げ、約2万8千筆の署名を集めた。地検が判断を覆し、危険運転致死罪に切り替えたことは異例だった。 今に至るまで寄り添い、支えてくれるのは、同じような事故で家族を亡くした全国の遺族だった。つながった仲間たちと2023年夏に「高速暴走・危険運転被害者の会」を設立し、共同代表に就いた。 弟を失ってからも、各地で繰り返される悪質な事故に心を痛めてきた。「私たちと同じ思いをする人を出したくない」と訴える。 ようやく始まる公判では被害者参加制度を利用し、法廷で被告と向き合う。事故を機に自身の生活は一変した。「被告はどういう思いで日々を過ごしてきたのか。問いかけたい」と話した。 <メモ>事故は2021年2月9日午後11時ごろ、大分市大在の県道(法定速度60キロ)で起きた。当時19歳だった男の乗用車が時速194キロで直進中、交差点を右折してきた乗用車に激突。乗っていた同市の男性会社員=当時(50)=を出血性ショックで死亡させた―とされる。