情報BOX:トランプ氏の政権移行、倫理と安全保障に懸念再び
Nandita Bose [ワシントン 25日 ロイター] - バイデン米大統領とトランプ次期大統領は、正式な政権移行プロセスをまだ開始していない。このプロセスは通常数カ月を要し、外交政策から進行中の捜査に至るまで行政府が新政権の当局者とあらゆる情報を共有することになる。 大統領就任を1月20日に控えるトランプ氏は、バイデン氏との一連の政権移行文書に署名していないため、財務省、国務省、エネルギー省、農務省、運輸省など15省庁の職員は次期政権チームに状況を説明することができない。 この状況は政府運営に支障をきたす可能性があり、トランプ氏が任命した政府高官が倫理上のハードルをクリアできるかどうかにも疑問を呈する声がある。 現状について分かっていることは以下の通り。 <なぜ政権移行プロセスが重要なのか> これにより、次期大統領のチームは国家安全保障に関するブリーフィングに参加したり、連邦政府機関にアクセスしたりして、1月20日から連邦政府を運営するための複雑な準備作業を開始できるようになる。 <トランプ氏が署名していない文書は何か> トランプ陣営は今のところ、政権移行を開始するために法律で義務付けられている2つの協定、一般調達局(GSA)とホワイトハウスとの覚書に署名していない。 GSAとの合意により移行チームにはオフィス、ITサービスなどが提供され、ホワイトハウスとの合意で連邦政府機関の職員や資料にアクセスできるようになる。 政権移行法に基づき、合意には厳格な倫理規定も盛り込まれている。トランプ氏と移行チームは、就任後に利益相反を避けることを誓約する必要がある。 政権移行の資金を規定する1963年の法律に基づき、トランプ氏の移行チームは10月1日までに倫理誓約書を提出することが義務付けられていた。 <トランプ氏はなぜ協定に署名しないのか> 政権移行に詳しい関係者2人は、事態が進まない原因はトランプ氏が自身の事業から手を引かねばならなくなることを望まないためだと語った。 大統領選に勝利した3日後、トランプ氏は自身の交流サイト(SNS)「トゥルース・ソーシャル」で、同サイト運営するトランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループの株式を売却してはいないとし、「売るつもりはない」と投稿した。 関係筋によると、トランプ政権移行チームの幹部は、スタッフに適用される独自の倫理規定文書と利益相反に関する声明を非公式に起草したという。 この文書は法律要件を満たしておらず、トランプ氏が任期中に利益相反にどう対処するかを説明する文言も含まれていないという。 文書に署名しないということは、政権移行のための資金を提供している個人献金者の名前を公表する必要がなく、ホワイトハウス復帰資金として無制限に資金を集められることも意味する。政権移行法は献金者の氏名公表を義務付けており、寄付の上限を5000ドルと定めている。 政権移行チームは、トランプ氏が文書に署名する意向だと繰り返し述べているが、主な優先事項は候補者の選定と審査で、いつ誓約書に署名するかは不明だ。 移行チームは、スタッフ全員が参加の条件として厳格な倫理誓約書に署名したとしている。 <利益相反について、法律ではどうなっているか> 米連邦政府の年間予算約7兆ドルは税金で賄われており、連邦政府の職員は自身やその会社、家族に利益をもたらすような形で地位や影響力を行使してはならないと、複数の法律に定められている。 議会は2019年に法律を改正し、大統領選候補者に対し選挙前に倫理計画を公表することを義務付けた。この超党派の法律は、第1次トランプ政権時代の倫理問題に対する懸念から生まれた。 <その結果どうなるか> 倫理専門家らによると、大統領は監督する分野が多すぎて執行が現実的ではないため、利益相反法の適用を免除されている。この制度は、大統領が就任時に自分の利益と国家の利益を切り離そうと良心を持って努力することを前提としている。 しかし、最高裁が今年、トランプ氏は1期目の在任中に憲法上の権限内で行った公務について訴追されないとの判断を下したことで、この規範に疑問が投げかけられた。 <トランプ氏の保有資産は> トランプ氏はトランプ・メディアの株式を37億6000万ドル相当保有しているほか、暗号通貨事業、不動産、海外事業にも出資している。 現在、息子のエリック氏が経営する不動産会社は、ホテル、ゴルフコース、リゾート、ニューヨーク市内のオフィス、小売事業、マンションなどを所有している。 <セキュリティーチェックはどうか> トランプ政権移行チームは、連邦捜査局(FBI)による閣僚候補者などの身元調査を許可する覚書を司法省と交わしておらず、機密情報にアクセスできる国家安全保障担当候補の名前もFBIに送っていないと関係者の1人が語った。 政権移行では候補者の審査に民間企業を利用しているという一部報道があり、連邦司法機関がトランプ大統領の任命者を適切に審査しない可能性も残されている。 <最初の任期中はどうだったのか> トランプ氏は1期目に就任した2017年、自身の事業権益を2人の息子が管理する信託に託し、大統領としての決定から利益相反の疑いが排除されるような措置を講じた。 それでも、自身の事業やブランドに関連した潜在的な利益相反について政府倫理局から繰り返し非難されてきた。 <倫理の専門家の意見は> トランプ氏は2期目の4年間、倫理面の監視がほとんどない、あるいは全くない状態で政権を運営する可能性があり、利益相反が起きやすい。また、外国企業などがトランプ氏の事業に巨額の投資をすることで、同氏や政策に影響を与えようとする恐れもある。 民主党議員らがまとめた報告書によると、トランプ氏の最初の任期中、サウジアラビアや中国を含む少なくとも20カ国の政府がトランプ氏のホテルやゴルフ場で総額780万ドル以上を費やした。 米ピュー・リサーチ・センターの調査によると、政府に対する国民の信頼はトランプ前政権下で過去60年間で最低水準に達し、政府が正しいことをすると信じる国民はわずか17%だった。