<甲子園交流試合・2020センバツ32校>中京大中京4-3智弁学園 中京大中京、最強の証し エース終盤153キロ、完投11K
◇第3日(12日・阪神甲子園球場) 中京大中京が交流試合初のタイブレークを制した。同点の延長十回無死満塁、西村の二飛が失策を誘いサヨナラ勝ちした。先発右腕・高橋は最速153キロの直球を武器に11奪三振で完投した。智弁学園は3点を追う四回、押し出し四球と西村の2点適時打で同点としたが、その後は好機の凡退が重なり、先発の西村が最後に力尽きた。 【真夏の熱闘】交流試合の写真特集はこちら <中京大中京4―3智弁学園> 右腕を思いきり振り抜き、あらん限りの力を込めた直球が、外角低めに構えた捕手のミットに寸分の狂いなく吸い込まれた。九回2死一塁、中京大中京の先発・高橋が1番・三田に3球勝負を挑んだ139球目は、この日最速の153キロ。「チームのエースとして投げきらないと勝てない」。11三振を奪う、149球の完投劇につなげた。 自己最速となる154キロをマークした愛知独自大会決勝から中1日だったが、コンパクトなフォームから150キロ台を連発した。四回に真っすぐがシュート回転するなどし3四死球。3点を失ったが、その後は再びスコアボードに「0」を並べた。 「世代ナンバーワン」を掲げてきた。自慢の球速を増すために、毎日10キロの走り込みに坂道ダッシュもこなし下半身を強化。高い修正力に加えて状況判断も冷静で、七回からはセットポジションの際に構えるグラブの位置を変えることで投げ下ろすことを意識し制球を修正。六、七回は150キロ台の速球をあえて封印し、低めに球を集めて体力温存。高橋監督に続投の確認をされたときも「投げさせてください」と志願し、タイブレークでも直球勝負にこだわり続けた。 試合開始前、マウンドの上に指で「心」と書いた。「全員で戦う気持ちを表した」と高橋。新チーム発足時からチームで掲げていた目標は公式戦無敗。昨秋に各地区大会王者が集う明治神宮大会を制し、今夏の愛知独自大会でも優勝し、この日の勝利を合わせて28連勝で終えた。今後のプロ入りに含みを残しながらも、進学を第一に考える右腕。甲子園での球速表示で、高校生最速に並ぶ155キロには届かなかったが、チームを勝たせる投手であることを最後まで証明し続けた。【藤田健志】 ◇智弁 左腕、投球術で対抗 プロ注目の右腕を向こうに回し、一歩も引かなかった。「自分が高橋投手と投げ合えるとは思っていなかったけど、終盤は投げ勝つつもりだった」。智弁学園の2年生エース西村は、惜敗の悔しさの中に手応えをつかみ取った。 奈良独自大会は3年生のみで戦ったため、甲子園が今季公式戦の初登板になった。もともと課題と自覚する立ち上がりに甲子園のマウンドに立った緊張感も加わり、「地に足が着いていなかった」。一回に4安打を浴びて3点を失ったが、強気が持ち味の左腕はすぐに切り替えた。 三回1死から4番・印出に内寄りの直球を左前に運ばれると、配球を内角中心から外角主体に変更。さらに終盤は内外にうまく散らし、的を絞らせない。130キロ台後半の直球に交えるカットボールもさえた。150キロ台の速球を連発する中京大中京・高橋とは対照的な投球術で、四回以降は1安打で投げ抜いた。 自身のバント処理のミスも絡んでサヨナラ負けした直後は泣き崩れ、相手校歌を聞く間も腰を折り続けた。だが取材エリアでは、淡々と言葉を継いだ。「強い相手とやれて、実力を知ることができた。来年は春も夏も、甲子園で優勝したい」。すっかり涙の乾いた目で、同学年の4番・前川らも残る新チームでの戦いを見据えた。【野村和史】 ◇インフィールドフライ暗転 延長十回無死満塁で中京大中京の打者が内野へ飛球を打った。球審は故意の落球により併殺打となるのを防ぐため、「インフィールドフライ」を宣告し、打者はアウトとなった。しかし二塁手が飛球を落球。プレーは継続され、ボールが転がる間に三塁走者が生還。中京大中京がサヨナラ勝ちした。 公認野球規則によると、インフィールドフライは、無死または1死で走者が一、二塁か満塁の時、打者が放った飛球について、内野手が普通の守備行為をすれば捕球できると判断した際に、審判が宣告する。飛球が捕球されれば走者は帰塁しなければならないが、宣告後もインプレーのため、走者は進塁してもよい。 今回の場合は、二塁手が捕球していれば、三塁走者は帰塁してタッチアップする必要があったが、落球したため、そのまま本塁を陥れることができた。【倉沢仁志】 ◇眼力、サヨナラホーム 前田識人(しきと)右翼手(中京大中京・3年) 同点の延長十回無死満塁、三塁走者の前田は飛球を追う二塁手を凝視していた。「バックする脚がずっと動いている。もしかしたら落とすかもしれない」。三塁ベースに足を乗せつつ、万一に備えて本塁方向に体重をかけた。捕球しかけた二塁手のグラブからボールがこぼれるのを見ると猛然とスタート。「人生初」のサヨナラのホームに間一髪、滑り込んだ。強打が売りの外野手で「走塁は得意じゃない」が、土壇場での観察眼が光り、好判断につながった。 インフィールドフライが宣告されていた。打者はアウトになるがプレーは継続となるため、二塁手が落球するか、捕球されても体勢が悪ければタッチアップも狙える場面。十回の守りから入ったばかりだったが、落ち着いていた。 尊敬する人物は「命のビザ」で知られる外交官の杉原千畝。第二次世界大戦中にユダヤ人難民を助けた偉人のように、冷静な判断で好機をつぶしかけたチームを救った。【石川裕士】 ……………………………………………………………………………………………………… △午前10時2分開始 智弁学園(奈良) 0003000000=3 3000000001=4 中京大中京(愛知) (延長十回、十回はタイブレーク)