衆院政治倫理審査会幹事会の開会を待つ国会内＝2月

　過去最多の9人が立候補した自民党総裁選で各候補は、安倍派などの政治資金規正法違反事件（裏金事件）に対する党員、有権者の怒りを意識し、「党の改革」を訴える。一方で、実態解明に向けた再調査や裏金議員の追加処分には慎重姿勢を崩さない。実は、議会制民主主義の観点から、見過ごされている重大な問題がある。衆参両院の政治倫理審査会での、73人を対象にした「全会一致」の審査の議決が放置されていることだ。（時事通信解説委員長　高橋正光） 【写真】安倍晋三元首相の肖像画が飾られた部屋で開かれた衆院政治倫理審査会 　◇全会一致は「国民の総意」 　派閥パーティー券販売のノルマ超過分を、政治資金収支報告書に記載していなかった事件は、主権者たる国民から選ばれ、国民にルールを課す（法律を制定する）立場の者が、長期間、組織的にルールに違反していたもの。しかも、政治資金パ―ティーの収入は原則、非課税。自らに有利なルールすら、守っていなかった事案だ。国民が怒るのは当然と言えよう。 　こうした事情も踏まえ、衆院の政治倫理審査会（政倫審）は5月、出席済みの一部の元安倍派幹部らを除いた44人に対し、自民党も賛成して全会一致で審査を議決した。4月の衆院3補選で立憲民主党が全勝。議席が増えた野党から審査の申し立てが可能になり、自民党も受け入れた。 　衆院側の動きを受け、参院の政倫審も、出席していなかった29人を対象に、再度全会一致で審査を議決。与党の筆頭幹事は「議決の重みと政治的・道義的責任を感じ、審査会で説明いただきたい」と強調した。 　政倫審はルール上、委員の申し立てに基づいて審査が議決されても、出席の判断は対象議員に任されており、強制力はない。結局、誰も出席を申し出ず、現在に至っている。ちなみに、対象の1人、堀井学元内閣府副大臣は、政倫審で説明しないまま衆院議員を辞職。ノルマ超過分を収支報告書に記載しなかった政治資金規正法違反とともに、裏金の一部が原資とみられる香典や枕花を地元に配った公選法違反でも略式起訴され、罰金刑が確定した。 　議会制民主主義の観点から一連の手続きについて解説すると、自民党の賛成は「不記載議員は、出席して説明せよ」が党の方針であるということを示している。また、国民の代表が集う国会での全会一致は「国民の総意」を意味する。 　従って、議決を無視すると、「党の方針」「国民の総意」に応えていないことになる。ルールに基づいて政倫審に出席しないことは、あくまで議員としての権利を行使したにすぎず、党や国民の要請に応じていないことが正当化されるわけではない。 　2～3月に元安倍派幹部らを審査した衆参の政倫審では、事件の真相は分からずじまいだったが、議決に伴い問われているのは国会の権威。対象議員全員が出席したとして、実態解明が進むかどうかとは別問題。次元の異なる話だ。