「文豪レスラー」TAJIRI、最新作「真・プロレスラーは観客に何を見せているのか」に込めた思い…「世の中に『それでいいのか?』と問いたい」
九州プロレスのTAJIRIがこのほど、全編書き下ろしの随筆「真・プロレスラーは観客に何を見せているのか 30年やってわかったこと」(税込・1100円)を徳間文庫から出版した。 TAJIRIは、1970年9月29日、熊本・玉名市生まれの53歳。94年にIWAジャパンに入団し同年9月19日にデビュー。同団体を退団後はメキシコの「CMLL」で修業し大日本プロレスに入団。その後、メキシコ、米国の「ECW」などで活躍後、2001年に世界最大の団体「WWE」に入団。05年12月までトップレスラーの一角として活躍。帰国後はハッスルに所属し、新日本プロレスにも参戦。10年には自ら「SMASH」を旗揚げ。14年には「WRESTLE―1」に移籍。17年にWWEに復帰するがヒザのケガで退団。同年帰国後、全日本プロレス参戦。21年1月全日本入団、22年末退団。23年1月からは九州プロレスに所属している。 さらにリング外では執筆活動に没頭し「プロレス深夜特急 プロレスラーは世界をめぐる旅芸人」「戦争とプロレス」(いずれも徳間書店刊)などの随筆に加え、小説「少年とリング屋」(イーストプレス刊)を出版。心の琴線に触れる作品は、いずれも高い支持を獲得し「文豪レスラー」と呼ばれている。 デビューから今年で30周年を迎える波乱万丈のレスラー人生、そして作家としても豊かな感性を発揮するTAJIRIの最新作が「真・プロレスラーは観客に何を見せているのか 30年やってわかったこと」。400ページに及ぶ同書は2019年12月に草思社から発刊された「プロレスラーは観客に何を見せているのか」を全て刷新した一冊となっている。コロナ禍を経てから4年。あれからすべてを書き下ろした理由をTAJIRIはこう明かした。 「あれからプロレスも世の中も良くなったことが、ほとんどないような気がしていました。それは、今の世の中は言っちゃいけないことも言っちゃいけないという風潮。だけど、ネットでは匿名でひきょうな書き込みが横行している。プロレス界、そして今の世の中も『おかしいんじゃないか?』とその視点を打ち出したかったんです。僕は、言いたいことは言わずにはいられない性分。だから、世の中に今の風潮を『それでいいのか?』と問うために書きました。僕が書いたことに『そうじゃない』と反論が出てもいいんです。その考えを正々堂々とぶつけて欲しい。そこで何かの気づきがあればいい。世の中がよりよい方向にいけばいいという思いを込めた本です」 昭和時代。アントニオ猪木は「八百長論」でプロレスをさげすむを世間に対し真っ向から闘いを挑んだ。時を経てTAJIRIは、自らの活字で令和時代の「ネット社会」と葛藤している。そして本書にあるTAJIRIの主張は簡潔で、そして深い。 「関わる者の人生を幸せにするために存在しているのがプロレス」 TAJIRIの職業は「プロレスラー」。だからこそ「プロレス」と表現しているが、読者はここに自らの職業、立場、地位…を当てはめるといいだろう。すべての人は、他者を「幸せにするために存在」しており、決して匿名で誹謗(ひぼう)中傷をするために「存在」しているのではない。この本はプロレス人生30年で培ったプロレスラーによる「幸福論」なのだ。 WWEでトップとして活躍するなど国内外のマット界を熟知したTAJIRI。今のマット界には冷静な視線を投げかける。 「今のレスラーは自分が幸せになるためにやっている。よりミクロになってしまった。世の中は、人が不快になるものを見ても見ぬふりをするとかどんどん悪い方に行っている。プロレスもそれにならっている。プロレスラーは、世間がダメな方向へ右にならえをしたらプロレスが存在する意味がない。世間から批判されようと何だろうと自己主張しないとレスラーじゃない。プロレスラーは映った世相がおかしいと思ったら変えていかないといけない鏡であるべき。今は世相をただ映しているだけです」 そしてTAJIRIは、こうつづる。 「もしかすると、非日常の刺激を求めて観にいくものだったプロレスが、日常での疲れを癒やしにいく場所へと変わってしまったのかもしれない」 非日常の象徴だった「プロレス」が日常となった。TAJIRIはこれからのプロレスの行く末をこう見通す。 「プロレスは合理的に完成されているすごいジャンル。それをレスラーが意識していない。格闘技と比較するものではまったくないんです。いろんなやり方があるはず。この本で考えるきっかけになればいい。そして、これはあくまでも僕の考え。そしてみんなもそれに対して言いたいことを言って欲しい。そう思って書きました」 続けてこう苦笑した。 「でも誰も言ってこない。だからダメなんです」 (福留 崇広)
報知新聞社