精神医療に寄り添う新ドラマ『Shrink(シュリンク)-精神科医ヨワイ-』の魅力と制作秘話
リアリティを重視しつつ、理想も示したい
次はドラマの内容を掘り下げる。1話「パニック症」では、雪村葵(夏帆)は原作ではなかったシングルマザーという設定が追加されており、息子・翔(白鳥廉)や元夫の母・文世(余貴美子)とのやり取りが見られた。オリジナル要素を足した理由について、「原作の『パニック障害』は1話で終わる短い内容だったため、『何かしらの要素を足さなければいけない』『誰かのために頑張る姿を描きたい』ということで、オリジナル要素を追加しました」と回答。 また、オリジナル要素で言えば、弱井と雨宮が葵の症状を確認するため、一緒に外で階段に上るシーンも印象的だった。「精神科医ってこんなに寄り添ってくれるの?」という疑問も浮かぶが、中江氏にとってはこだわりのシーンだったようだ。 「監修で入っている精神科医の先生は『病院内の階段で患者に付き添ってやることはあるけど、わざわざ外出して一緒にやることはほぼない』と話していました。また、『初診以外は5~10分で診察は終わる』『そうしないとお金にならない』と精神科医の実情も教えてもらったのですが、『弱井のポリシー的にそういう接し方はどうなのか?』という疑問が浮かびました。 とはいえ、弱井はもともと看護師を雇っておらず、住居(兼医院)も大家さんの好意で格安で借りている設定です。そこで『診療時間が5~10分ではなくてもクリニックは運営できるのか?』ということを実際に計算したところ、何とか雨宮を雇い、かつギリギリの生活をすれば弱井が生きていけるだけの収入を得られることがわかりました」 「リアリティを重視しつつも“患者にしっかり寄り添う”という理想も示したい」という思いから描かれたシーンであると語った。 精神医療を扱っている作品ということで、当事者に納得してもらい、誤解を与えない作品にしなければいけない。ドラマを制作するうえで注意したことは何なのか。中江氏は「監修で精神科医の先生には入ってもらっていますが、さらにいろいろな病院に行き、精神科医の先生方に取材させていただきました。役者陣も先生方に話を聞いたり、直接指導してもらったりなど、リアリティを追求するように努めました」と振り返る。その中でも特に苦労したシーンは2話「双極症」だったという。 「双極症は躁状態、鬱状態が反復する症状ですが、躁状態と鬱状態の間の状態“混合状態”というものもあります。ただ、混合状態にある人の動画を見せてもらったのですが、外見でパッと識別できるものではありませんでした。そこの撮影はかなり苦労しました。監修の加藤先生に丁寧に指導していただいて何とか演じていただくことができました」 多くの視聴者に癒しを与え、さらには精神医療の知識も学べる本作。最後に本作で伝えたいことを聞いた。 「3話で雨宮が『若い時に精神医療の知識を持っていれば……』と悔やむシーンがあります。私も近しい人を何人も亡くしており、雨宮のように『自分に何かできることはなかったのか?』『あの時何かしておけば今もあいつは生きていたんじゃないか?』と考えることは少なくありません。ただ、精神医療を身近に感じてもらえれば、当事者だけではなく、その周囲の人達の苦しみを和らげられると思います。本作を通して精神医療に対するハードルが下がれば嬉しいです」 少ない話数ながらも確実に多くの人の心に残っている。どのような結末を迎えるのかもしっかり見届けたい。
望月 悠木