意外と気づかない、鉄道利用者「激減の危機」…70~80代高齢者は自宅周辺で生活が完結する未来
この国の人口はどこまで減っていくのだろうか。今年1年間の出生数が70万人割れになるかもしれず、大きな話題となっている。 【写真】日本人は「絶滅」するのか…2030年に百貨店や銀行が消える「未来」 そんな衝撃的な現実を前にしてもなお、多くの人が「人口減少日本で何が起こるのか」を本当の意味では理解していない。 ベストセラー『未来の年表 業界大変化』は、製造・金融・自動車・物流・医療などの各業界で起きることを可視化し、人口減少を克服するための方策を明確に示した1冊だ。 ※本記事は河合雅司『未来の年表 業界大変化』から抜粋・編集したものです。 大都市圏の通勤路線は転換点にある。これまでは郊外から中心市街地のオフィス街にいかに効率よく大量に輸送するのかが問われてきた。通勤に便利な場所の地価が上昇し、そうしたところに鉄道会社のグループ会社が住宅を開発するというビジネスモデルが成功してきた。このため、郊外へと都市は肥大化を続けてきた。 しかしながら、今後は大都市近郊の衛星都市で75歳以上人口が急速に増え始める。かつて満員電車で通勤した昭和世代は郊外に自宅を構えており、そこで老後を過ごすためだ。単に高齢者が多くなるだけでなく、一人暮らしや外出に手助けを必要とする人も増える。
鉄道に乗る必要のない人が増える
東京都も大阪府も高齢者が激増する。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によれば2040年には東京都の高齢化率が29.0%、大阪府では34.7%に達する。 交通の便の悪い地区に住む高齢者は自宅周辺で過ごすことが多くなりがちだが、東京都市圏交通計画協議会の資料によれば、プライベートの用事をマイカーで済ませる65~74歳は、2008年と2018年の比較で1.26倍、75歳以上では1.5倍に増えている。社会が高齢化するに伴い、大都市圏においても毎日鉄道に乗る必要のない人は確実に増えていくだろう。 加えて、テレワークが普及してきており、勤労世代にも衛星都市で一日の大半を過ごす人が多くなっている。衛星都市の役割が「ベッドタウン」から「仕事も趣味も生活も楽しむ街」へと大きく変わりつつある。 これまでは通勤・通学客にとって、「利便性」というものが大都市圏の鉄道会社への大きな評価基準であったが、今後は「地域内の移動手段」としてのニーズも大きくなる。 「住みやすい街」づくりに主体的に参加する鉄道会社が評価されることとなるだろう。 人の動きが減るならばモノも運ぼうと新幹線などを使った貨物輸送への取り組みも見られる。需要はそれなりにありそうだが、鉄道利用者の減少をカバーするまでには至りそうにない。 大都市圏の鉄道会社が人口減少社会において鉄道事業を続けながら、新たな収入を確保しようとするなら、まずは駅の機能を強化することだ。有望な資産をうまく活用しない手はない。一人暮らしの高齢者が増えるにつれて、行政サービスの窓口や医療機関、福祉施設などが集中した生活必需サービスを一元的に受けられる「便利な場所」へのニーズは大きくなる。 これまでのような乗り換えの便利さや商業施設の充実だけでなく、駅を「電車に乗るための場所」から周辺住民にとっての「便利な場所」へと生まれ変わらせるのである。