病害虫まん延を水際で防ぐ「植物・家畜防疫官」のお仕事
海外から持ち込まれる植物や畜産物に付着した病虫害がまん延することを水際で食い止める植物防疫所や動物検疫所。重要な役割を果たす一方で、実際に空港や港などでの水際対策とは何をしているだろうか──。愛知県常滑市の中部国際空港(セントレア)で働く植物・家畜防疫官を取材した。 【画像】取材当日に検査に引っかかった持ち込み品
携帯品を厳しくチェック 「母国の味」没収も
「これは何かな?」 ボストンバッグから取り出した植物を手に植物防疫官が穏やかに、しかし厳しく問いかけた。入国審査を終え、荷物をベルトコンベヤーから受け取ったスリランカから入国した中年男性が「カレーリーフ(カレーの煮込みに使う葉)」と堂々と回答した。 どうやら持ち込んだ植物が違反だとは知らない様子。カレーリーフが没収されると聞くと、表情が曇った。さらに、干し肉のような肉加工品も出てきた。これも没収された。 日本では植物防疫法と家畜伝染病予防法に基づき、特定の植物類・畜産物類の持ち込みが禁止されている。禁止されていなくても大半の植物、畜産物が輸出国の政府機関の検査に基づく検査証明書が必要だ。しかし、この男性は証明書を持っていなかった。「日本に住む息子に、母国の味を食べさせたかった。持ち込めないとは知らなかった」と残念そうにつぶやいた。 セントレアの検疫カウンターでは、1日当たり100点ほどの植物類、畜産物類が検査される。用途は「自家消費用」「栽培用」などさまざまだが、大半が証明書がないなどの理由で持ち込みできない。農水省動物検疫所中部空港支所は「多くの人が何を持ち込めて何が禁止されているのかを知らない。悪気なく荷物に加えていることが多い」と説明する。
検査権限の強化で「精度が上がっている」
検疫業務はかつて貨物検査に注力していた。輸出国が検査証明書を適切に発行するなどして、貨物を由来とする病虫害や動物疾病の危険性は大きく下がった。現在、旅行客の増加で、個人の携帯品の危険性が高まり、強化されている。 日本では、法改正で動物検疫所が2020年7月、植物防疫所が23年4月に防疫官の検査権限が強化された。改正前は、「持ち込み禁止品を持っている」と自己申告した人の携帯品だけが検査できたが、現在は入国者に対して質問の投げかけや検査ができるようになった。 同省名古屋植物防疫所中部空港支所の三浦敏光統括植物検疫官は「以前よりも、検疫の精度が上がっている」と実感する一方、「効果的な方法の検証を絶えず行う必要がある」と強調する。入国者への声かけや質問方法を学ぶため、警察官を講師とする講習会を開き、技術向上に努める。
取材後記
取材の帰り際に「入国者と関係者に、積極的に注意を呼びかけてほしい」と声をかけられた。日本の農業を学ぶ外国人実習生だけでなく関わる日本の農家にも協力してほしいという。 取材を通じ持ち込みに対する意識を高める必要があると感じた。海外を行き来することの多い生産者や、外国からの実習生を受け入れている生産者は今後、植物・家畜防疫に触れる機会が増えるだろう。記事を通じて注意を呼びかけられるよう、今後報道をしていきたい。(古庄愛樹)
日本農業新聞