気鋭監督アンシュル・チョウハン、日本映画界に感じる“自由” 映像制作集団「g」で新作プロジェクトも
モットーは「正直であること」
チョウハン監督が映画作りで最も大事にしているのは、「唯一つ、自分にウソをつかないこと、正直であること」という。「偽物だと思われるようなシーンは、作るべきではない」とまで言い切る。 「もちろん、限られた予算では限界がありますが、最大限に努力し、正直でいることを心掛けています。長編2作目の『コントラ』はまさにそう。低予算で5人だけのチームで取り組みましたが、ストーリー作りから演出に至るまで全てが情熱的で、そこに偽りは何一つありませんでした」 モットーを貫くために、徹底的に調べることにもこだわる。「自分とのつながりを感じることができないものは書けないし、作れません。だから、誰かが誰かを殺すようなストーリーでは殺人者の心理や被害者の家族を知るために捜査報告書などに目を通し、理解できるまでの時間を惜しみません。3作目の『赦し』では、東京高等裁判所まで実際に何度も足を運びました。周りからは“どうしてここにガイジンが座っているのか”とそんな目で見られていましたけれどね(笑)。でも、だからこそ、“後悔とは何か”、“謝罪とは何か”ということを突き詰めていくことができたのだと思っています。正直であるということは、こういうことだと私は思います」
チョウハン監督は映画作りの自身のスタイルに理解を示す日本のエージェントと契約も結ぶ。それが、カンテレの元プロデューサーである重松圭一氏が2023年に立ち上げた映像制作集団「g」である。 「取り組みたいプロジェクトについて話し合うと、目指すゴールが同じであることが分かり、すぐに契約書にサインしました。gに参加することはごく自然な流れだったと思います」 ■安藤サクラのような「ご一緒したい俳優も」 今後も日本を拠点に活動していくというが、日本の映画界をどう見ているのか。意見を求めると、チョウハン監督は「両面がある」と答えた。 「日本の映画界の問題は、十分な予算がない。それだけです。アメリカではインディーズ映画でも200万ドル(約2億6,000万円)からスタートし、興行収入で得た分を次の映画に投資することができるような良い循環が作られています。つまり、仕組みの問題なのだと思います。日本は政府からの助成金があまり得られないことも現実問題としてありますよね。それから配給会社自ら投資するケースも少ない。 ただ、日本の映画界には良いところがあります。それは、誰がどんな映画を作っても公開できることです。インドでは政府が気に入らなければ公開できないこともあれば、映画祭でも作品を取り下げられることが起こってしまう。それと比べて、日本は自由さがあります。もちろん、映画を公開することは簡単なことではありません。日本は安くて本当に良いものを作らなければならないとても厳しい市場です。濱口竜介監督のインタビュー記事を読んだ時に驚きました。映画を100万ドル以下で作っていて、チームメンバーは10人しかいなかったそうで、それなのにアカデミー賞を受賞しているのですからね。他の国ではあり得ないことです」 映画界の現状を冷静に見つめながら、さらなるチャレンジに挑む準備を進めている。具体的に動き出したプロジェクトもあり、LGBTをテーマにしたものや、沖縄と台湾を舞台にしたものなど3つほど企画を抱え、今は一緒に参加してくれるパートナーを探しているところだという。 「これまで以上に大きなプロジェクトに取り組むことが目標です。大きいといっても、単に予算が大きいという意味ではなく、大きなビジョンを持って、妥協せずに取り組むことを大事にしたい。安藤サクラのようなご一緒したい俳優も何人かいます。日本で仕事を続けながら、インドでやりたい仕事もあるし、アメリカでの仕事もある。映画監督として、いろいろなストーリーをバッグに忍ばせておこうと思っています」