なぜ今ベーシックインカムなのか 第2回:「ベーシックインカム」という考え方 同志社大学・山森亮教授
■“プレカリアート”の増大
同教授は今年5月に、続編ともいうべき『プレカリアート憲章』(未邦訳)を刊行したが、ロンドン大学で開かれた出版記念講演には、イギリスで金融危機後のオキュパイ運動などに関わった若者たちも多く参加していた。 これらの本や世界各地での講演での彼のメッセージは明快である。すなわちグローバル化の進展と産業構造の転換によって、多くの労働者が正規雇用で働ける時代は過ぎ去った。世界各地の「右派」政権は、労働法制の規制緩和などで労働者の権利を奪うことで、その流れを促進し、その結果としての労働者の悲惨には目もくれない。他方、「左派」政権は、せいぜい規制緩和などのスピードを緩めるだけで、組織された正規労働者の権利を守ろうとする一方、増大する非正規雇用者=プレカリアートの悲惨に対応できるような、新しいヴィジョンを持ち合わせていない。ベーシックインカムを含む政策パッケージこそが、そうした状況に対応した新しい社会を築く第一歩であると。 そして従来の自由市場礼賛型「右派」でも、伝統的な「左派」でもない、比較的新しい政党の綱領に、ベーシックインカムが掲げられてきている。ヨーロッパの多くの国の「緑の党」はじめ、イタリアの政治危機のなかで躍進したコメディアン率いる「五つ星」運動、ドイツの「海賊党」、今年5月の欧州議会選挙で躍進したスペインの「ポデモス」などがベーシックインカムを提唱している。「ポデモス」は日本ではほとんど知られていないが、金融危機後の若者たちの抗議運動を母体として今年3月にできたばかりの政党だ。「ポデモス」はスペイン語でwe canを意味する。 ※5回連載。原則、毎週金曜日に掲載予定。「第1回:社会保障制度の“限界”」はこちら