良質有精卵を子どもたちに 山麓で鶏放し飼い
神奈川県秦野市で第三者継承で新規就農する事例が出てきた。同市唯一の養鶏場「みくるべたまご」を営む澤口裕師さん(45)だ。丹沢山麓の斜面を利用して階段状に並ぶ鶏舎で、放し飼いの鶏が産む卵を出荷する。「子どもたちに栄養たっぷりの卵を食べてもらいたい」と、未来を担う世代に届けるため、日々奮闘している。 「みくるべたまご」は、鶏にストレスができるだけかからない環境にこだわり、伸び伸び育った鶏の良質な有精卵をJAはだの農産物直売所「はだのじばさんず」などに出荷する。鶏舎は、木立に囲まれた自然豊かな環境に建つ。鶏が自由に歩き回れる舎内に加え、屋外にもネットを張り、移動できるスペースを広く確保。間伐材を利用して、鶏が登れる遊び場を作るなど、工夫を凝らす。 飼育するのは、オランダ原産の品種「ネラ」350羽。餌は、市内で栽培された古代米やもち米、トウモロコシなどを粉末にして独自にブレンド。名水百選にも選ばれている同市の湧き水も与え、鶏の健康に常に気を配る。 澤口さんは元々1次産業に興味があり、金属加工業に従事する傍ら、趣味で林業に関わる講習を受けていた。林業仲間に誘われて有志団体の米作りに参加したところ、養鶏場で後継ぎを探している話を耳にした。自然と共存する飼育方法に感銘を受け「ここで養鶏をやりたい」という思いを強めた。先代の下で1年間研修し、事業を継承した。 養鶏に携わる前は、小学生のサッカーチームで約10年にわたりコーチを務めていた澤口さん。「タンパク質が多く栄養価の高い卵は、運動後の補食に最適。子どもたちに食べてほしい」と思いを語る。新たな取り組みとして、栄養を強化した卵の出荷を目指している。自らエゴマやモロヘイヤを栽培し、鶏に与えることで、ドコサヘキサエン酸(DHA)などを多く含む卵作りに挑戦する。 消費者へのPRにも取り組み、インスタグラムで小まめに情報を発信。養鶏への思いや鶏舎での作業の他、野生動物の被害に遭ったことなども伝えながら、養鶏を身近に感じてもらうことに力を入れている。今後、卵の収穫体験など、子どもや家族連れ向けのイベントも開く計画だ。「養鶏場の環境を利用して子どもに楽しんでもらえる体験を提供できれば」と笑顔を見せる。
日本農業新聞