NHK大河ドラマ『光る君へ』と朝ドラ『虎に翼』は、いまなぜインディペンデントウーマンを描いているのか?
究極の玉の輿に乗らなかったワケ
一方、『光る君へ』のまひろ(吉高由里子)は、漢文や漢詩に通じ、文才にも恵まれていためちゃくちゃ賢い女性。しかし当時の貴族社会は男性中心の世界。どんなにまひろが優秀でもその能力を生かすことはできず、唯一の女の幸せは、富や地位のある男性と結婚すること(正妻、妾に関係なく)。そんな時代に、身分違いの相手である藤原道長(柄本佑)と恋に落ちたまひろ。道長は、圧倒的に身分の低いまひろを妾に迎えるという破格の申し出をするのだが、まひろは「正妻じゃなきゃ嫌だ」とこれを拒否。二人はそれぞれの成すべきことを成そうと、別の道を歩いていくことを決めるのだ。 おそらくまひろが正妻にこだわったのも寅子と同じ理由で、女としての幸せより、一人の人間として自分の人生をやり切ることのほうを選択したかったからだろう。当時のまひろは、寅子と違って自分が何をしたいのかはまだ分かっていない。しかし、何かやりたい。読み書きが大好きで、それを良い形で世に還元できないかと漠然とながら切望していた。寅子の時代以上に女性が活躍できない平安中期において、まひろはその実現法の一つが“正妻になること”にある、と思っていたわけではないかもしれない。ただ、少なくとも妾になれば相手を待つだけの身となり、間違いなく自分の人生をやりきれなくなる、ということだけは分かっていたのではないか。だからまひろは貧しさに苦しむことも、行き遅れとして肩身の狭い思いをすることも分かっていながら、それでも、震えるほど愛する人との別れを断腸の思いで選んだのだろう。 そしてドラマのスタートから5ヵ月が経った今、まひろは父親の転勤に同行して越前の地に赴くこととなる。当時の越前は、外国からの商人が多く訪れる国際色豊かな土地。まひろはこの地で、自分が人生をやりきるための何かを見つけられるはずだと、期待に胸を膨らませて新たな一歩を踏み出すのだ。
PROFILE
書き手 山本奈緒子 Naoko Yamamoto 放送局勤務を経て、フリーライターに。「VOCE」をはじめ、「ViVi」や「with」といった女性誌、週刊誌やWEBマガジンで、タレントインタビュー記事を手がける。また女性の生き方やさまざまな流行事象を分析した署名記事は、多くの共感を集める。 Edited by 渕 祐貴
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