『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』エース監督が再登板 クレア・キルナーが描く社会の閉塞
デイモン(マット・スミス)がハレンの巨城へドラゴンを向ける
あくまで政治的解決を試みるオットーは、いよいよ開戦につながりかねないこの計画に怒りを禁じ得ない。狡猾な王位簒奪者に見える彼もまた歴代3人の王に仕え、王土の安定と平和を願う理想主義者であり、その志はターガリエン王朝で最も長い平和を築いた先々代ジェヘアリーズ王に仕えた故なのかもしれない。エイゴンは文官である祖父を放逐するや、いわば軍属であるクリストンを王の手に任命。世継ぎを産み、夫を看取ったアリセントはもはやお飾りに過ぎず、クリストンとの肉欲に抗うこともできない(人知れず涙を流す我が子に言葉をかけることすらしない)。キルナーは第2話において、権力者と平民というモチーフを何度も対比している。暗殺の標的が自分であることを悟ったエイモンド・ターガリエン(ユアン・ミッチェル)は年重の娼婦の胸に癒やしを求めるが、「王子が理性を失うと、別のところに火の粉が飛ぶ」という名もない彼女の言葉こそが、最も的を射ている。 かくしてサー・アリックはレイニラ暗殺の密命を帯び、ドラゴンストーン城へと潜入する。前回記事でも触れたが、『ゲーム・オブ・スローンズ』に比べ脇役を膨らませられていない本作では視聴者がアリックとエリックを見分けることはおろか、どちらがどの派閥に属するかも判然としない。しかしクレア・キルナーは迷路のような城内に2人を歩かせ、激しい剣戟で何度も立ち位置を入れ替えさせると、もはやレイニラにも把握できない状況を作り出す。一方が倒れるや、残った者は懺悔の言葉を口にし、自害する。後には権力に翻弄され、愛する兄弟を手にかけた無念しかないのだ。 レイニラの危機を知ることもなく、不和を抱えたままデイモンはどこへ向かったのか? 彼がドラゴンを向けたのはハレンの巨城。ターガリエン家がウェスタロスを征服する以前、“暗黒王”と呼ばれた暴君ハレンが自らの威容を誇るために建造した城である。大陸のほぼ中央に位置する七王国最大の要衝であり、ハレンは征服王エイゴン1世にも怯むことなく籠城したが、ドラゴンによって一夜にして一族郎党と共に焼き殺され、後には巨大な城郭だけが残ったとされる。ここを占拠することで黒装派は戦略上の優位を得ることができるのだ。陰惨な暗殺劇の応酬によって、ついに“双竜の舞踏”の戦端が開かれようとしている。
長内那由多(Nayuta Osanai)