学習指導要領の改訂 真のポイントは“能力観の転換”
下村博文文部科学相は11月20日、小・中・高校などの教育の基となる「学習指導要領」を全面的に改訂するよう、中央教育審議会(会長・安西祐一郎日本学術振興会理事長)に諮問しました。英語教育改革や高校日本史必修化などが注目を集めていますが、実はもっと大きなポイントがあります。「何を教えるか」(児童・生徒にとっては「何を知っているか」)から「何ができるようになるか」へと重点を移し、そのために「何を学ぶか」「どのように学ぶか」をも変えようという教育観・能力観の転換であり、そのための指導要領の「構造改革」です。 【図表】今の受験生にも無関係じゃない? センター試験「廃止」問題
「21世紀型」が世界の潮流
諮問の理由説明文では、「新しい時代を生きる上で必要な資質・能力を確実に育んでいく」ために、未来に向けて指導要領の改善を図ることを求めています。 具体例として経済協力開発機構(OECD)が「生徒の学習到達度調査」(PISA)で測定している「キーコンピテンシー」(主要能力)や、国際的な大学入学資格が取得できる「国際バカロレア」のカリキュラム、日本で先日ユネスコ世界大会も開催された「持続可能な開発のための教育」(ESD)、東日本大震災からの復興教育などを挙げ、それらの共通点を、▽知識の伝達だけに偏らず、学ぶことと社会とのつながりをより意識している、▽基礎的な知識・技能を習得するとともに、実社会や実生活の中で活用しながら自ら課題を発見し、解決に向けて主体的・協働的に探究し、表現し、更に実践に生かしていけるようにする――とまとめています。 実は、こうした諮問の仕方には伏線がありました。文部科学省が学識経験者を集めて2012年12月に設置した「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」(座長・安彦忠彦神奈川大学特別招聘教授)です。これまでも改訂に際して省内に内々の「勉強会」が設けられることはありましたが、今回は他の審議会と同様に会合が毎回マスコミや一般に公開され、その提言が「論点整理」(14年3月)として公表されたところに違いがあります。 そこでは国立教育政策研究所(文科省のシンクタンク)のプロジェクトチームが提言した「21世紀型能力」を参考にしながら、指導要領の構造そのものを変えるべきだとしています。同研究所によると、OECDのキーコンピテンシーや、インテルなど世界的IT(情報技術)企業が出資する国際プロジェクトATC21Sが提唱する「21世紀型スキル」など「コンピテンシーに基づく教育課程改革は世界的潮流」であり、各国で見直しが進んでいるといいます。 いずれもグローバル化や情報化が進む21世紀には知識をたくさん覚えることよりも、知識を使って異質な他者と協働して新たな価値を生み出すことの方が重要だ、という考え方が背景にあります。文科省にも、そうした国際的動向に遅れては日本の将来はない、という危機感があるようです。