カスハラ被害、中小企業の18%が経験 うち10社に1社は休職・退職も
カスタマーハラスメントが急増し、社員の休職や退職の新たな理由になりつつある。多くの企業が、問題顧客への対応マニュアルなどを急ぎ作成しているが、現場任せの対応では社員の心身を守れない。大事に育てた人材がカスハラによる精神疾患が原因で自殺に至ってしまった事例まで出ている。カスハラと戦うには、全社一丸となってあらゆる手段を講じることが必要だ。カスハラが起きたときの対処法の確立や予防策は大前提。最も重要なのは、カスハラの最前線に立つ現場の社員をいかに守るかだ。かけがえのない社員を失わないための方策を紹介する。 【関連画像】 思いもよらない理由で、休職や退職に至る社員が増えている。その要因として急浮上しているのが、顧客からの著しい迷惑行為、カスハラだ。人手不足の時代、企業は事業存続のため本気で対策を練る必要がありそうだ。 カスハラが原因で自殺未遂に至ってしまった社員が遺書を残していた。そこには嫌がらせをしてきた相手よりも、守ってくれない組織や上司への強い恨み言が書かれていたという。 近年のカスハラは過激化の一途。企業や自治体向けにカスハラ対策を指導するキューブルーツ代表の津田卓也氏は「今やカスハラは退職や休職、心の病などの原因になりつつある」と警鐘を鳴らす。 民間調査会社の東京商工リサーチが2024年8月に実施した調査によれば、直近1年でカスハラを受けたことが「ある」と回答した中小企業は18.4%。そのうち10社に1社以上で既に「カスハラ休職・退職」が起きている。
一方で、こうした状況に企業がいかに対応しているかと言えば、「特に対策は講じていない」が73.4%に上るなど、現場任せで、組織的な対策はできていないところが目立つ。対策内容を見ても「従業員向けの相談窓口を設置」(7.65%)を除けば、カスハラが起きたときの対処が中心で、社員のケアは十分でないことがうかがえる。 こうした現状に社員が不安を抱いている。全国の様々な企業に勤務する正社員300人を対象に実施した本誌「日経トップリーダー」の調査では、78人がカスハラを経験。「あまり上司を簡単に出すな。我慢して最後まで低姿勢でいろと言われた」(40歳・生活関連サービス・娯楽)、「俺に言われてもと逃げられた」(49歳・金融・保険業)、「すべての対応を丸投げにされた上、『決着したら報告して』とだけ言われた」(28歳・教育学習支援業)など不満が噴出した。 会社や上司のこうした対応が続けば、組織に嫌気が差して退職を選ぶ社員がいても不思議ではない。人手不足の中、必死で採用した大切な人材をカスハラを理由に辞めさせてはいけない。 (この記事は、「日経トップリーダー」2024年11月号の記事を基に構成しました)
荻島 央江