<ボクシング>山中慎介の左はなぜ”神の左”と呼ばれるのか?
「WBC世界バンタム級タイトルマッチ」(11月10日 両国国技館) “ゴットレフト”が炸裂した。9回だった。 「8、9回になって徐々に距離をつめていくことができていたので」 満を持しての左。 「思い切り踏み込んでワンツーを打ったら綺麗にあたった」と、WBC世界バンタム級王者・山中慎介(帝拳)が振り返る一撃は戦慄のKOパンチとなった。 [写真]TKOしたモデルボクサー ■ステップワークが自慢の”いやらしい”相手 世界8位にランクされていた23歳のアルベルト・ゲベラ(メキシコ)は、18勝(6KO)1敗の戦績。過去に一度もKO負けしたことのない反射神経とステップワークが自慢のボクサーだった。ひとつの黒星は、2階級王者のスター、レオ・サンタクルスに、昨年のIBF世界バンタム級戦で、0-3で敗れたもの。この試合も足で翻弄して一人は、4ポイント差。サンタクルスに試合後、「てこずった。倒せなかった」と言わせた相手である。 両国のファンからは「そんなパンチ当たっても痛ないぞ」と野次が飛んでいた。素人目にわかるほど、ゲベラに怖さはまったくなかった。ただ、ちょこまかと動き、体ごと飛び込んで来るので、この上なくいやらしいボクサーだった。公開採点方式のWBCでは、4回、8回終了時点で、途中採点が公表される。そのポイント差は、どんどん開く一方で、負ける心配はなかったが、KO勝利を宿命づけられている山中にすれば、逃げられフラストレーションばかりが蓄積していくような試合展開となった。 ■マイク・タイソンばりの”空気パンチ” 「左ばかりを警戒しているので右が当たるぞ」というセコンドの指示があって6回から右のジャブを積極的に使い始めた。ようやくゲバラのハエのような動きが鈍り始めた。8回、ロープを背負わせて左を打ち込むとゲバラは、ストンと腰から落ちた。一度目のダウン。だが、筆者には、パンチが当たったようには見えなかった。試合後、山中本人も「なんで倒れたん? 当たったかどうかもよくわからなかった」と首をひねった。 全盛期のマイク・タイソンばりの“空気パンチ”だ。つまり、相手が大きな恐怖感を抱いているため、パンチがかすっただけで被害妄想が膨らみ体に力が入らなくなってしまうのである。試合後、ゲバラは「新しいシューズのおかげで足裏の皮がめくれて下半身に力が入らなかっただけ。山中のパフォーマンスはリスペクトするが、効いたのは一発だけだ」と恐怖心を打ち明けなかったが、まさに山中の左には神が宿っていた。