「眠る前に心静められる曲を」初のカバーアルバム発表 シンガー・ソングライター石崎ひゅーいさん
「さよならエレジー」「虹」など、心打たれるヒットソングを送り出してきたシンガー・ソングライター石崎ひゅーいさん(40)が、初のカバーアルバム「night milk」をリリースしました。将来への不安が漂う現代。「眠る前に心を静められるように」と選曲したそうです。 -タイトルの意味は? ★石崎 もともと、デビュー翌年の2013年に発表した「ナイトミルク」という曲があって。夜、眠れない友達の不安に寄り添いたいと思って書いたんです。 -「睡眠薬なんか捨てちまえよ 僕がナイトミルクいれてあげるから」という歌詞が印象的です。 ★石崎 誰でも夜、一人でいると誰かの声を聴きたい時があると思うんです。僕もそうだし。それなら自分がその誰かになればいいと思って、ユーチューブを使った「ナイトミルク」というネットラジオ番組を始めました。みんなの悩みを聞いたり、リクエストを募ってカバー曲を歌ったり。放送はもう240回近くになります。今回のアルバムは、番組で歌ったカバー曲を中心に、自分が好きな曲を選びました。 -どれも優しい歌声です。 ★石崎 曲の中に入っていって、安心して眠ってもらえるように歌ったつもりです。僕も昔は内省的で、自分の中にある怒りや悲しみ、鬱憤(うっぷん)を爆発させたくて曲を作っていました。漠然とした不安があって、根こそぎ世界を変えたい、みたいな。だけど周りに支えてくれる人が増えてきて、寄り添うことの大切さを学ばせてもらいました。だから番組でもみんなの意見をよく聞くし、エゴサーチもするし。そうしながら歌と真摯(しんし)に向き合うことで、ソングライティングの幅も広がったと思います。 -「ひゅーい」は本名なんですね。 ★石崎 デヴィッド・ボウイの大ファンだった母が、彼の息子のゾウイにちなんでつけてくれました。とっても気に入っていますけど、よく勇気があったなと。母は若い頃、演劇のスタッフのようなことをやっていて、アングラ芝居やロック、そして宇宙が大好きでした。まるで宇宙人のような人で。母の影響で、中学の時に劇団に入ったんですが、母は僕を俳優にしたかったようです。その後、音楽の方が女の子にモテるということが分かってしまって、バンドのボーカルを始めました。そして大学に入って本格的にオリジナル曲を作るようになったんです。 -デビュー曲の「第三惑星交響曲」はお母さんの葬儀がモチーフですね。 ★石崎 ええ。母の葬式を宇宙から見ているような感じです。僕が24歳の時に亡くなりましたが、一番影響されているし、今でも尊敬しています。母親というより、僕にとってはアーティストみたいな人。僕というフィルターを通して母の考え方やアイデンティティーを世の中に発信していきたいと思っています。 -「さよならエレジー」や「虹」を楽曲提供した俳優の菅田将暉さんとは、親交が深いとか。 ★石崎 彼は僕のライブを見て「演劇的で面白い」と褒めてくれるんです。飲みに行くこともありますが、この前は一緒に料理して。タイの昆布締めを作りました。 -福岡市での10月のライブではラストが「虹」でした。「一生そばにいるから 一生そばにいて」というサビは全員で合唱して感動的でした。 ★石崎 音楽が完成するのは、目の前にお客さんが来てくれて、笑ったり泣いたりアクションを起こしてくれた時だと思うんです。お客さんとの往復書簡のようなもので、今後も大切にしていきたいですね。一緒に「虹」を歌って泣いている人がいると僕も泣けるし、本当に歌を作ってよかったと感じます。楽曲によっては1年間、頭を抱えまくって作ることもあるし、報われる瞬間です。 -これからの目標は? ★石崎 映画やドラマの主題歌も作らせてもらって、いろんな経験を積みました。今後も自分の音楽をより丁寧に伝えていって、日本武道館のステージに立ちたいです。応援してくれたみんなと大きな景色を共有したい。みんなを引き連れて行きたいです。 (文・写真、加茂川雅仁)
いしざき・ひゅーい 1984年生まれ、水戸市出身。大学時に結成したバンドでオリジナル曲でのライブ活動を本格化させ、その後ソロシンガーに転向。2012年「第三惑星交響曲」でメジャーデビュー。俳優としても活躍する。27日発売の初のカバーアルバム「night milk」は「旅路」(藤井風)、「蝶々結び」(Aimer)など9曲を収録。