映画『愛に乱暴』、江口のりこさんインタビュー。「丁寧に暮らしている女性が、〝こういうこと〟になっちゃうところに面白さがあるなと思いました」。
「丁寧な暮らし」の陰で渇望し、暴走する愛。
「他の人と違う強烈な個性があるわけでなく、ごく普通の女性ですよね。普通に、丁寧に暮らしている女性が、〝こういうこと〟になっちゃうところに面白さがあるなと思いました」 吉田修一さん原作の映画『愛に乱暴』で演じた、主人公・初瀬桃子の印象を江口のりこさんはこう語る。 41歳の専業主婦である桃子の一日は、母屋に暮らす姑の照子に声をかけて、ゴミ出しをすることから始まる。
家事の手を抜かず、夫のために時間をかけて料理を作り、結婚前に勤めていた会社では手作り石鹼教室の講師も任されている。一見、すべてが順調だけど、見ようによってはすべてがどこか不自然にも映ってしまう。 「健気な人ですよね。自分の決めた生活を一生懸命することで鎧をつけているような、そんな感じ」 かわいがっていた野良猫がいなくなったり、姑からおすそ分けされた大量の鮮魚を持て余したり、リフォームの相談をしても夫は聞く耳を持たなかったり……。不協和音は次第に大きくなり、桃子が気づかぬふりをしてきたある事実が明かされる。 「原作の小説が面白すぎて、夢中になって読みました。撮影が始まってもその興奮に引っ張られていたところがあって、現場にも小説を持参していたんです。そんな私に『これは映画なのだ』と気づかせてくれたのが、姑役の風吹ジュンさんでした。特に何か言われたわけではないのですが、風吹さんの存在を通して、映画としての『愛に乱暴』を作ればいいんだって思えたんですよね」 どの役のときも、どう演じればいいのかは「現場に入ってみないとわからない」と常々思っている。それでも今回は特に、桃子をつかむまでが難しかったと振り返る。 「撮影が始まって間もない頃は、何かに怒ったり悲しんだりするわけでもなく、日常の何でもないシーンを淡々と撮っていたので、これで合ってるのかなという思いでした。そのうちふと、役についてわかることがあったりするんですけど、そればかりは計算できない。不思議ですよね」 必死に保ってきた平穏な生活の均衡が崩れることで、桃子は何を思い、どんな行動に出るのか。 「後半に行くにつれ、絶対に外せないシーンが多かったから、私を含め、スタッフさんも必死だったと思います。しかも今回はフィルムで撮っていたので、デジタルのようにいちいちチェックして、その場で修正ができない。そのときできたものを繋いでいく楽しさがありました。 (目の前にあった本作のチラシを指さして)これだけでも、めっちゃ面白そうな映画に見えるじゃないですか。ああ良かった!って思いますよ」