【視点】北朝鮮「参戦」 緊張激化の恐れ
ウクライナのゼレンスキー大統領は、北朝鮮がロシアに兵士を派遣し、ウクライナ侵攻に参戦していると主張した。ウクライナ政府は証拠となる映像も公開した。 北朝鮮の参戦に関しては、韓国の情報機関も肯定する見解を示している。事実だとすれば戦争の様相を一変しかねない重大な事態と言える。 それは、これまでロシア対ウクライナの構図だった戦争が名実ともに多国間の戦争になるということであり、戦争がアジアにも波及してきたことを意味する。 また、ロ朝の軍事的協力が軍事同盟のレベルに高まり、今後は北朝鮮の戦争にロシアが関与する懸念が大きくなる。 これに中国も加わると、例えば八重山の尖閣諸島や台湾周辺で中国が軍事行動を起こした場合にどうなるか。必然的にロシアや北朝鮮が中国の支援に動くということであり、もはや地域紛争ではとどまらなくなる恐れが出てくる。 世界は日米や欧州といった民主主義国家と中国、ロシア、北朝鮮などの専制国家のブロックに分断される。偶発的な衝突が第三次世界大戦を招きかねない。 ウクライナ侵略で事実上ロシアを支援しているとされる中国も、公式にはその事実を認めておらず、対外的には中立国を装っており、辛うじて最後の一線は踏み越えていない。北朝鮮の無思慮が際立つ。 北朝鮮の参戦はウクライナでの戦争を複雑化させるばかりか、世界の緊張をいたずらに激化させる愚行だ。北朝鮮の指導者に対しては、火遊びから一刻も早く手を引けと言いたい。 日本を含む民主主義国家の国々も、参戦が事実だと確認されれば、北朝鮮への圧力をさらに強めなくてはならない。 ただ、参戦による北朝鮮のメリットも想像できないことはない。核開発などで国際的な孤立化が進む中、ロシアに恩を売ることで政治的、経済的支援を得たいという思惑は容易に見透かせる。また兵士に実戦を経験させ、軍の強化を図るもくろみもあるだろう。 石破茂首相は北朝鮮による拉致被害者の家族と面会し、金正恩朝鮮労働党総書記との会談について「首脳同士が大局観をもって、お互いの考えを率直に述べあうことは極めて重要だ」と意欲を示した。 だが北朝鮮の参戦が事実だと確認されれば、日朝首脳会談の実現は絶望的な状況になるのではないか。日本としては欧米と歩調を合わせ、北朝鮮に対する制裁強化の方向に動くほかない。 金政権は韓国との間を結ぶ道路を爆破するなど、南北間の対立を激化させる方向で動いている。拉致問題も現状では、対話による解決は極めて厳しいと言わざるを得ない。 根本的には北朝鮮の現体制が崩壊しない限り、韓国、米国、日本との緊張関係が続く。それはロシア、中国に関しても同じことである。