鈴木亮平はなぜ高い信頼度を誇るのか? 『下剋上球児』などで立ち上げるリアルな人物像
俳優・鈴木亮平は、どうしてこんなにも信頼できる存在なのだろうか。なぜ多くの人々が彼に対して絶大な信頼を寄せずにいられないのだろうか。 【写真】『レンアイ漫画家』鈴木亮平インタビュー撮り下ろしカット 現在は“高校野球”を題材とした日曜劇場『下剋上球児』(TBS系)が放送中で、主演俳優としてチャーミングなヒーロー像を立ち上げ、若者たちを牽引しているところ。鈴木を信頼しているのは、私たち視聴者/観客だけではないように思う。彼のキャリアを少しだけ振り返り、高い信頼度を誇るその理由を探ってみたい。 放送中の『下剋上球児』とは、大学まで野球一筋だったものの怪我を機に引退した男が、弱小高校野球部の仲間たち(=生徒たち)とともに“下剋上”を果たそうというもの。鈴木が演じるのは主人公の南雲脩司。野球への情熱を断ち、教師としてごく普通の日常を送っていたところ、ひょんなことから野球部の顧問を務めることになった人物だ。 物語の序盤では、どんなかたちであれ再び野球に情熱を注げることと、やはり野球とは距離を置きたい心情の揺れを表現する鈴木のパフォーマンスに魅せられた。セリフを発する際の声の強弱、内面の変化を示す視線の動き。セリフは生きた言葉となり、視線の動きは心の動きとして私たちに差し出された。その後は若者たちと野球の道を走ってきたわけだが、こうして作品の中心に立つ者がリアルな人物像を立ち上げることで、たとえドラマの展開に多少の無理があったとしても視聴者は素直に受け止められるのだ。 「日曜劇場」の特徴といえば、作品のアツさとスケールの大きさが挙げられるが、この枠で鈴木が主演を務めるのは2度目のこと。2021年には救命救急のプロフェッショナルチームの活躍を描いた『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS系)にてあらゆる意味での“リーダー”を演じ、2023年の春にはその特別編である『TOKYO MER~隅田川ミッション~』が放送され、劇場版までもが公開された。製作に関わったすべての人々の力があってこそのものだが、鈴木が座長としてひとつの作品をヒットに導いたのは間違いない。先述しているように、どんな俳優が中心に立つのかがやはり大きいのである。 俳優・鈴木亮平といえばまさにカメレオンのように、作品ごとにさまざまなキャラクターに姿を変えてきた。正義感の塊のような男を演じていたかと思えば、悪魔のような暴力団の組長役にも。これらは“擬態”ではなく、完全なる“変身”だった。NHK大河ドラマ『西郷どん』(2018年)では西郷隆盛を、 映画『燃えよ剣』(2021年)では近藤勇を演じてきた鈴木だが、いずれも歴史上の人物をそれらしく演じる域を圧倒的に飛び出していたものである。世間に広く浸透しているイメージを模倣して再現するのではなく、変身して生きる。 鈴木は役作りに対して非常にストイックな俳優として知られているが、たしかに彼ほどの存在はなかなかいないだろう。これはなにも、増量や減量、筋力トレーニングによる肉体改造ばかりを指しているのではない。もちろん肉体を作り変えることは容易でないことを私たちは知っている。10キロ単位の増量や減量は、一般的な生活を送る者からすれば相当な困難をともなう。場合によっては身体を壊してしまうことにもつながりかねない。これを鈴木は作品ごとに行っている。 けれどもこれはキャラクターの外側の話である。役を演じ、自分ではない別の人間として生きるためには、その内側も作り変えていかなければならない。内側と外側とがリンクしてはじめて、『下剋上球児』の主人公・南雲脩司のようなリアルな存在が生まれる。ひるがえって考えてみると、『孤狼の血 LEVEL2』(2021年)で“悪魔”を演じていたときの鈴木自身はどんな状態にあったのだろうか。俳優それぞれに役を演じるための方法論を持っているものだが、私たちを人間不信にさせる鈴木の変身ぶりは心配になるほどだ。 メンタル(=内側)もフィジカル(=外側)も作り変えるのは大変であり危険なことだが、鈴木ほど演じるキャラクターの振れ幅が大きな俳優もなかなかいない。このことから、彼がどれだけ多くの製作陣から期待を寄せられているのかが分かる。『ゴールデンカムイ』のキャストが発表された際に鈴木の名前がないことが話題になったが、それは彼が非現実的なマンガのキャラクターを演じられる肉体の持ち主だからというだけではないはず。鈴木亮平ならやってくれるーーここまでに記してきたことと重ね合わせれば、彼のように圧倒的に信頼できる存在を誰もが欲する理由は分かるのだ。Netflixによる実写版『シティーハンター』で主人公・冴羽獠を演じることも早くから話題だが、彼が差し出すのはその見た目のハマりっぷりだけではないだろう。 2023年の鈴木は『エゴイスト』での演技が高く評価され、第22回ニューヨーク・アジアン映画祭2023にて「ライジングスター・アジア賞」を受賞もしている。どストレートなエンタメ作品から作家性の強い作品にまでフィットしてみせる俳優・鈴木亮平。彼の信頼度の高さは、そろそろ海外にも広がっていくのではないだろうか。
折田侑駿