石原さとみ「母になったからこそ」出産後初の復帰作で痛いほどわかったこと
「あえて言葉を選ばずいうならば、映画の中にいる自分が醜くて、見苦しくて、みっともなくて。そこにすごくホッとしたんです。自分が見たことのない、見せたこともない顔ばかりが映し出されていたことに安心したし、嬉しくもあった。今までの私のことなんて忘れて、沙織里という一人の人間に没頭してもらえるはずだって」 【写真】「母になっても変わらず可愛い」SNSでも話題…石原さとみさんの撮り下ろし 彼女自身も「石原さとみであることを忘れられた」という言葉通り、主演映画『ミッシング』(5月17日公開)には誰もが憧れてやまない“石原さとみ”の姿は跡形もなく、一人娘の失踪にただ憔悴し、浴びせられる誹謗中傷に理性が削がれていく母親・沙織里がいた。
人生で一度も起こったことがないことが続々
「吉田恵輔監督からは『動物を撮っているみたいだった』と言われて(※吉田恵輔の「吉」は正式には「つちよし」以下同)。今までは、どちらかというと何をやるにも器用だねって言われることが多かった人生でした。例えば、これまで出演した作品の記録さんにも『何回、同じ芝居をしてもタイミングがズレることがない! 』と驚かれるくらいだったんですよ。けれどこの作品では、私はそんなつもりはないのに、最後まで『言ったことと真逆の芝居をする』と言われ続けて、たぶん本当にスランプ状態だったんだと思います。 カットがかかったことにも気づかずに芝居を続けていたり、周りがまったく見えなくて、自分の芝居をコントロールできなかった。きっと沙織里自身がそうだったからだと思うんですけど、私も役を生きるのに必死すぎて、最後まで何が正解かわからないまま。自分の人生で一度も起こったことがないことが続々と押し寄せて翻弄されたまま終わった現場でした」
「何かを変えないといけない」と思っていた
出産後、1年9カ月ぶりの芝居に臨んだ石原さんにとって映画『ミッシング』は復帰作となる。今から7年前、石原さんが「吉田監督が描く世界で自分も生きてみたい」と出演を直談判したことがそもそものはじまり。 「私のところにオファーをいただく作品と吉田監督の作品は真逆というか、同じ業界にいながらも生息地が違う感覚で、接点を持ちたいならば自分から飛び込んでいくしかないと思ったんです。どんなに焦がれても吉田監督からオファーが来ないだろうと思っていたので。 あの頃の私は、世間が求める石原さとみとして応えたい、提示もしていきたい気持ちがありながら、欲しがられたものをそのまま渡したところで本当の意味で喜んでくれるのだろうか? と疑いもあった。だって、想像を超えないわけですから。だから絶対的に何かを変えないといけない、ちょっと変わったところじゃ誰もハッとさせられない。そんなときに出会ったのが吉田監督の作品で、私が選んだ道は誰の発想の中にもなかったと思います」 それから3年後、『ミッシング』の脚本が届いた。念願の吉田組に歓喜したのは一瞬のことで、「私にできるんだろうか?」と自問を繰り返す日々が途方もなく続いていく。 「脚本をいただいてから実際にクランクインするまでに3年ほどあって、その間に連ドラや舞台をやって……。常に頭の中には『ミッシング』があったんですけれど、“子どもが失踪する”――。どんなに想像をこらしたところで子どもを持たない当時の私にとってはどこかフィクションでした。どんな感情になるんだろう? って想像するだけ。 でも、自分が母になったら、この作品の苦しさや辛さ、残酷さが嫌でもわかってしまって、ページをめくるのが本当に辛かったです。出産後は、子どもを生かすために自分が生きるようになった。自分の命よりも大切な存在ができて、子どもの命を明日につないでいくのに必死な毎日を過ごしたので、沙織里の心や境遇により一層共鳴することができました」