米津玄師が「RED OUT」で描いている人物像とは? / YOASOBI新曲は大観衆の声援のように背中を押す
YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週刊連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで8月2日から8月8日にかけて集計されたミュージックビデオランキング、および急上昇ランキングの中から要注目トピックをピックアップします。 【動画はこちら】不穏な緊張感が漂う米津玄師、Tバックと赤べこが登場するサザン、聴く者の背中を押すYOASOBIのミュージックビデオ 文 / 真貝聡 ■ まずはこの週の初登場曲の振り返りから 今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、先週のこの連載で触れたMrs. GREEN APPLEのスタジアムツアーでの「点描の唄」のライブ映像が15位に。そのほか、BE:FIRSTにとって初となったドーム公演「BE:FIRST LIVE in DOME 2024 “Mainstream - Masterplan”」で披露された「Grow Up」のライブ映像が56位に登場。62位にはNiziUが初めて開催したファンミーティング「NiziU Fan Meeting with U 2024 Nizi"U"niversity」の中から「BELIEVE」がランクインしたりと、複数のライブ映像が上位に初登場している。 27位にランクインしたのはME:Iの「Hi-Five」パフォーマンスビデオ。猫をモチーフにしたステージで11人がスポーティな衣装で踊るシーンや、海をバックにおそろいの制服姿でパフォーマンスをするシーンなど、同じ振付でもシチュエーションによって印象が違って見え、1本の動画の中にさまざまな魅力を備えている。 69位にはStray Kidsの「Stray Kids」が登場した。歌詞にも過去曲のタイトルが盛り込まれているこの曲。MV開始53秒の車に乗っているシーンでは「Side Effects」、2分30秒のエレベーターのシーンでは「Hellevator」など、これまでに彼らが発表したMVを想起させる場面が随所に盛り込まれた、集大成を感じる映像作品となっている。 70位は&TEAMの「青嵐(Aoarashi)」。8月7日にMVが公開されてから1週間で1000万回再生を突破し、今もすごい勢いを見せている。 日韓の人気ダンス&ボーカルグループの楽曲が目立った今週は、下記の3曲をピックアップ。 ■ 米津玄師「RED OUT」 ※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場26位 8月21日にリリースされる米津玄師の6thアルバム「LOST CORNER」の収録曲であり、SpotifyブランドCMソングに起用されている「RED OUT」のMVが26位にランクインした。米津がボカロP時代に名乗っていたハチ名義に合わせてなのか8月8日に公開されたMVは、1週間で260万回再生を突破。 MVを再生すると冒頭で雷が鳴り、ひとけのない夜道の街灯が点いたり消えたりするシーンなど、終始ゾクゾクする不穏さと緊張感が漂っている。そんな中で聴こえてくるのは、同じく危うい雰囲気を放つダークな歌とサウンドだ。Bメロで「今すぐ消えろ 消えろ 消えろ 消えろ 消えろ 消えろ 消えろ」と徐々に声を荒げるように叫び、サビでの「鮮血煌めいて跳ねるスタインウェイ&サンズ」「頭の中で鳴り止まない砕けたバックビート」という衝動的な歌詞へと続く。ちなみにスタインウェイ&サンズとは、“世界三大ピアノ”の1つとされている最高峰のピアノメーカー。 ほかにも「繰り返し夢を見る 夢から目覚めてもそこは夢」や「万感の思いでファンファーレまであとジャスト八小節」といった歌詞があることから、この曲は悪夢を振り払うようにピアノの前で作曲をする人物の姿を描いているのではないかと感じる。MVを観るたびに、曲中の主人公の苦悩や内省的な世界観に何度も引き込まれる。 ■ サザンオールスターズ「恋のブギウギナイト」 ※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場53位 小池栄子と仲野太賀がダブル主演を務め、宮藤官九郎が初めて医療ドラマの脚本を手がけたフジテレビ系「新宿野戦病院」の主題歌「恋のブギウギナイト」のMVが到着した。 同曲はムード歌謡を彷彿とさせる日本ならではの懐かしい歌メロと、エレクトロサウンドという対照的なジャンルの要素を組み合わせたような楽曲だ。MVも同様に、着物姿の女性や提灯が登場する一方で、電飾で文字を表現する令和のネオン街を想起させる演出があったりと、2つの時代性をミックスした映像になっていて、楽曲との親和性が高い。ところどころでセクシーな女性のTバックシーンが盛り込まれていたり、意味深な赤べこが出てきたりとサザンならではの遊び心も楽しめる。 8月8日には同曲と「新宿野戦病院」のスペシャルコラボムービーが公開されており、楽曲に合わせてドラマの象徴的なシーンを振り返ることができるので、合わせてチェックいただきたい。 ■ YOASOBI「舞台に立って」 ※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場64位 YOASOBIの新曲「舞台に立って」は、NHKのスポーツ中継や番組を盛り上げるテーマソング「NHKスポーツテーマ2024」としてメンバーのAyaseが書き下ろした楽曲だ。楽曲制作にあたりマンガアプリ「少年ジャンプ+」で活躍するマンガ家の桐島由紀、春野昼下、タイザン5にスポーツをテーマにした作品の制作を依頼し、描き上がったマンガをもとに江坂純が小説を執筆したのち、それらをベースに楽曲を制作していったという。 8月6日にはYOASOBIのX(Twitter)公式アカウントが、MVの公開を伝えるとともに「原作小説、マンガの世界観に加え、さまざまなスポーツに打ち込むアスリートを描きつつ、見てくださる皆さまが一歩前に踏み出す力をもらえるようにと、たくさんの願いを込めて作りました」と曲に対する思いをポストした。 そんな多くの人の手によって生まれたこの曲は、努力を続けた先にある感動をドラマチックに描いた楽曲に感じる。冒頭で「無邪気に思い描いた / 未来の私の背中を / ひたすら追いかけた」という歌詞で、大舞台に立つことを夢見て努力をする“私”をギター1本と歌だけで表現。サビでは「さあ / 待ちに待った舞台に立って / 高鳴る鼓動 挑戦の合図 / 何度も何度も / イメージしてきた / どんな自分も超えてみせる」「そうだ夢に見ていた景色の / 目の前に立っているんだ」と、念願だった場所にたどり着いた興奮と覚悟を見事に描写し、ドラムやベースが重なった盛大なサウンドは、 “私”の背中を押す大観衆の声援のように鳴り響く。 「舞台に立って」は高みを目指してがんばっている人や、目標を達成できずに悩んでいる人、これから大きな挑戦が待っている人など、多くの人が胸を打たれること間違いなしの快作だ。 ■ 真貝聡 ライター / インタビュアー。雑誌やWebで執筆するほか、MOROHA「其ノ灯、暮ラシ」、BiSH「SHAPE OF LOVE」、PEDRO「SKYFISH GIRL-THE MOVIE-」といったドキュメンタリー映像作品や、テレビ特番「Mrs. GREEN APPLE ~Review of エデンの園~」にインタビュアーとして参加している。