フェロー諸島に敗戦、問われる日本ハンドボールの総合力 寂しいスタンドが奪った五輪前の緊迫感
寂しいスタンドが奪った緊迫感、満員になっていれば…
確かに、フェロー諸島はいいチームだった。ドイツ屈指の強豪キールで活躍する選手もいるし、ほとんどはデンマークなどのリーグでプレーしている。近年急速に力をつけ、昨年の世界ジュニア選手権では7位。今年1月には初めて欧州選手権に出場し、強豪ノルウェーとも引き分けている。オルテガ監督も「レベルが高いチームだった」と舌をまいた。 とはいえ、一般的にはほとんど知られていない「小国」。アイスランドとノルウェー、英国の間にあるデンマークの自治領で、人口は約5万人しかいない。ハンドボールはサッカーとともに独立して代表チームを持つが、まだまだ発展途上の新興チーム。パリ五輪で対戦するドイツやスペインとは実績も実力も比べ物にならないほど違う。 だからこそ、勝たなければいけなかった。決して多くない国内での代表試合で、集まったファンの声援に応えなくてはいけなかった。アジア相手にも惨敗を繰り返していたかつての代表ではない。アジアのトップとして世界に挑もうとするなら、ここで負けていては話にならない。 「代表チームは結果がすべて」は、どの競技の代表選手も口にする言葉だ。この日も多くの選手が声をそろえたが、どこまで覚悟を持って真剣にそう思っていたのか。集中力を欠いたようなミスもあったし、ゴールや勝利を目指す気迫も感じなかった。もちろん、選手たちは真剣に戦っているはずだが、試合会場の空気にも緊迫感はなかった。 この日、代々木第一体育館の観客は2555人。スタンドはガラガラだった。野球やサッカーだけでなく、今やラグビーやバスケットボール、バレーボールでも日本代表の試合が「満員」になるのは当たり前。他の競技に比べて寂しいスタンドが、試合の緊迫感を奪っていた。 先月28日のパリ五輪代表発表会見では、終了間際にオルテガ監督が自らマイクを手にして壮行試合への来場を呼び掛けた。バルセロナで超満員の試合を経験する同監督は、応援の量が力になることを知っている。この日、スタンドが満員になっていれば、結果も違ったはず。少なくとも、パリ五輪に向けた選手たちの気迫は感じられたと思う。 渡部主将は3日の第2戦に向けて「すべてのハンドボーラー、ファンの思いを背負って戦う」と決意を口にした。その思いが強ければ強いほど、大きければ大きいほど、勝利は近づく。問われるのは、日本ハンドボールの総合力。日本協会や日本リーグが最大限の支援をし、多くのファンがスタンドを埋めるようにならなければ、代表チームのさらなる成長はない。(荻島弘一)
THE ANSWER編集部