「英単語を書いて覚える」は意味なし? 英語学習の“書いて覚える信仰”の背景にあった日本独特の文化とは?
中高生時代の英語を勉強するために英単語の書き取りをしたことがある人は多いだろうが、果たしてこのやり方は効率的なのか? “書いて覚える”信仰はどのようにして生まれたのか? 昭和女子大学国際学部教授で英語教育の研究者である森博英氏に聞いた。 【画像】TOEICの筆記試験や大学共通テストの試験はマーク式なのに、なぜ…
「英単語を書いて覚える」勉強方法は、学校の筆記テストの影響が大きい
あるX(旧Twitter)ユーザーがTOEICで高得点を取るための勉強方法について解説したポストが、1.3万以上の“いいね”を獲得して話題になっていた。そのなかに英単語を「大量に書いて覚えるやり方は効率が悪すぎます」という興味深い一文も。 授業時間に書かされる、宿題でノートに書き取る、試験対策でなんとなく繰り返し書く――といった方法で、英単語の書き取りを学生時代に経験した人は多いことだろう。 なかには「単語を書き取るだけで意味はあるの?」と首をかしげたり、それこそ効率が悪いと思ったりする人がいてもおかしくはない。とはいえ、英単語を書いて覚えるという勉強方法自体は、いまだに学校教育に残っている。 森博英氏は学術的な根拠はないと前置きしたうえで、この信仰が誕生した背景について次のように考察する。 「学校の筆記テストの影響が大きいのではないでしょうか。中高の筆記テストでは、英単語の書き取りはもちろん、英作文や英会話の穴埋め、和訳、英訳問題が課せられることが多い。 TOEICの筆記試験や大学共通テストの試験はマーク式ですが、学校の英語試験では記述式のテストが多数を占めています。ですからテストをこなすために、『単語を書いて覚えるのは当たり前』という考え方が根付いたと考えられます」(森氏、以下同) 学校のテスト対策の一環として、書いて覚えることが必要不可欠だったというわけか。 「英語の習得のためには、『聞く(リスニング)』、『話す(スピーキング)』、『読む(リーディング)』、『書く(ライティング)』の4技能が重要な要素と位置づけられているのですが、日本の英語教育では伝統的にリーディングを重視する傾向がありました。 『文法訳読法』という教え方で、あたかも暗号を解読するかのように、記号を付けたりしながら英文法の解説をして英語の文章を読む指導をしていました。 とりわけ文法力の育成に注力しようとして、英文法を身につけるため、英語の授業で和訳、英訳を行うこともしばしば。翻訳は書くことでも行われてきたので、その名残としても英単語を書いて覚える勉強方法が現在まで残っているのかもしれません」 別の観点では、書いて覚えることそのものは日本の教育の伝統だという考え方も。 「あくまで推察ですが、日本では仏教の影響により写経する文化がありましたので、それもあって『書いて覚える』ことが重視されていたのかもしれません。国語の授業や宿題で漢字の書き取りをさせるのも、そのような影響かもしれませんし、その流れで英単語の勉強でも漢字の書き取りに習った可能性はあるでしょう」