「レッスルマニアは例外だった」メイン実況は“人生の記念日”に…WWEの歴史的転換点で感じた奥深さ 王国の新たなスタートに期待【清野茂樹アナ連載#12】
昨年10月、SNSの総フォロワー数が世界で10億人を超えるアメリカが誇る世界最高峰のスポーツエンターテイメントであるWWEのメイン大会RAWとSMACKDOWNの放送が日本で開始された。さらに今年1月27日(日本時間28日)に行われたロイヤルランブル以降は、放送席の陣容を一新。自他ともに認める“WWEウォッチャー”の清野茂樹アナウンサーらが加わった。そんな清野アナが、自らの実況回ごとにWWEの魅力や楽しみ方を振り返る連載コラム。第12回目となる今回は、最大の祭典であるレッスルマニアDAY2の実況、さらにコーディ・ローデスの勝利で締めくくられたメインイベントの実況を終え、自身の“人生の記念日”に改めて感じたWWEの魅力と新たなスタートを切った王国へのさらなる期待。 アナウンサー失格ですが… 実況アナが素で興奮 WWE「レッスルマニア」の魔法 20年越しの夢が叶った至福の瞬間【塩野潤二アナ連載#6】
■WWEという「王国」がコーディ・ローデスという新たな王を迎え、新しい時代に突入。私は歴史の転換点に実況として携わった
今年の「レッスルマニア」は予想を遥かに超えた面白さでした。2日目のメインイベントは「何でもあり」のブラッドラインルールとは心得ていたましたが、まさか、ジョン・シナやシールド時代の格好をしたセス・ロリンズが出てくるとは。ザ・ロックの登場で、さすがに打ち止めだと思って「真打、登場です!」と実況で口走ったものの、直後にアンダーテイカーまで現れたときの驚きと言ったらありませんでした。なるほど。たしかに「何でもあり」です。 長年、プロレスの実況を仕事にしていると、多少のサプライズでは驚かなくなりましたが、今年の「レッスルマニア」は例外です。彼らが出てきた瞬間に自分が発した声が仕事としてだったか?ファンとしてだったか?と尋ねられても、はっきりとは答えられません。たぶん両方混ざっていたはずですが、断言できません。実はこの「どちらとも言えない」ものが私の大好物で、プロレスにはたくさん含まれているのです。 先ほど名前を挙げた往年のスーパースターの登場は、どれもサプライズ。彼らのテーマ曲が姿を見せる合図なわけですが、イントロですぐに反応して大歓声を上げる現地ファンの知識の豊富さにも脱帽しました。あの反応こそ、WWEが長い時間をかけてテーマ曲の刷り込みに努めたこと、曲を聞いたファンが育っていることの証明です。他のプロレス団体が真似しようにも、なかなかできることではありません。 「レッスルマニア」の第1回大会が開催された1985年、すでにプロレス狂の小学6年生だった私はプロレス雑誌の片隅に、その記事を見つけました。しかし、情報はそれだけ。アメリカなんて遠い世界の話で、掲載された写真を眺めて「ハルク・ホーガンはアメリカではタイツの色が違うんだな」「俳優のミスターTが試合ってどういうことだろう?」と想像するしかありませんでした。それから時を経て、現地の映像がリアルタイムで見られるなんて、まるで、この年のヒット映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のような話です。 中学から高校、大学に進んでも私の生活は常にプロレスが中心にありましたが、WWEとの距離はなかなか縮まりませんでした。1996年、社会に出てアナウンサーの職に就いてからはWWEの来日公演を機にスーパースターを取材する機会に何度か恵まれました。ただし、試合に関しては完成された世界観がありますし、まして「レッスルマニア」は聖域として考えていたので、40回という節目の年に、しかもメインイベントを実況するなんて思ってもいませんでした。今日は自分の人生においても記念日です。 さて、今年の「レッスルマニア」のテーマは「血筋」「家族」であると、私は中継でくり返し述べてきました。メインイベントで対戦したコーディ・ローデスとローマン・レインズはともにプロレスラーの家系に生まれています。試合後、勝ったコーディを祝福しようとリングに上がる母や妻はもちろん、彼に寄り添うスーパースターたちの間にまるで家族のような結束を感じました。さらに、最高コンテンツ責任者のトリプルHまでリングで祝福したのも異例です。鳴り続けるコーディのテーマ曲のタイトル「Kingdom」の通り、WWEという「王国」が新たな王を迎え、新しい時代に入ったことを感じた瞬間。運良く、私は歴史の転換点を伝えたことになります。 開催地のペンシルヴァニア州フィラディルフィアは1776年、合衆国の独立宣言が採択された街であることを実況の下調べで知りました。その歴史にぴったり過ぎるエンディングシーン。とはいえ、これは偶然でしょうし、コーディのテーマ曲が使われ始めたのも開催地が決まるずっと前のこと。では、大会ロゴにリバティベル(自由の鐘)がデザインされているのは、鐘の音で始まるアンダーテイカーのテーマ曲が鳴ることを暗示していたのでしょうか? 偶然か必然か、どちらとも言えないのがWWEの奥深さ。新たなスタートを切った王国がこれからどんな風景をみせてくれるのか、大いに楽しみにしています。 文/清野茂樹
ABEMA TIMES編集部
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