新日本酒紀行「平六醸造」
● 1921年築の日詰平井邸で醸す、原点回帰のクラフトサケ 国指定重要文化財の岩手県紫波町の日詰平井邸は、1921年に12代平井六右衛門が建て、当時の首相、原敬も訪れた歴史遺産だ。長く使われていなかったが、2024年1月、新たに息を吹き返した。16代の平井佑樹さんが、クラフトサケの醸造を開始したのだ。特徴は「米と水、紫波の風土を表現する副原料」と佑樹さん。酒にRe:vive(リバイブ)やlayer(レイヤー)と名を付け、地元素材で楽しく醸す。 【写真】「酒造りのこだわり」はこちら! もともと平井家は江戸時代から紫波町で酒造業を始め、大正末期に盛岡市へ移転。佑樹さんも実家の酒蔵に8年間勤めたが、経営難により21年に事業を譲渡した。その後、佑樹さんは酒蔵を離れて紫波町へ。日詰平井邸を改修しながら、朝市を開催し、野菜を育てる「はたけ部」も運営し、開かれた場に変えた。と同時に酒米「吟ぎんが」の栽培にも挑み、酒造りを目指す。だが清酒製造免許は新規では下りないため、「その他の醸造酒」の免許で申請し、24年1月から醸造を開始。
目指したのは濁酒(どぶろく)ではなく、透明な酒だ。副原料を加えた場合、搾って透明な酒が商品化できる。そこで着目したのが発芽玄米。米だが、副原料として認められている。ビタミンやミネラル、アミノ酸など栄養素が豊かにあるため、できた酒は香ばしく、リッチな甘みのある複雑な味に仕上がった。さらに、地元産の果実を加えた新作や、蔵から発見した100年前の酵母を使う、歴史的遺産を生かした酒も誕生。原点回帰のクラフトサケを紫波町から発信する。
(酒食ジャーナリスト 山本洋子) ※週刊ダイヤモンド2024年6月29日号より転載
山本洋子