ディーゼルとガソリンは悩ましい

フランスのニース周辺で開かれた国際試乗会では、2.0リッター・ディーゼルエンジンを積んだA5 アバント TDI クワトロ、そして2.0リッター・ガソリンエンジンを搭載したA5 セダン TFSI クワトロの2台を中心に試乗した。 まずアバントの印象を紹介しよう。 前述したMHEVプラスを搭載したディーゼルエンジンは204psと400Nmを発揮。最大トルクは旧A4 アバント TDI クワトロと変わらないものの、最高出力は新型が旧型を14ps凌いでいる。 それ以上に印象的だったのが、極低回転域での力強さとレスポンスで、ハイブリッドのせいか、走り出す瞬間の身のこなしが格段に俊敏になった。従って、「ディーゼルだからひと呼吸待たないと……」という先入観はもはや過去のものといっていい。 また、実際にアイドリング回転数が高くなっているわけではないのに、なんとなくエンジン音が軽快で、ディーゼルらしいガラガラ音がまったく聞こえなくなったことも印象的だった。 走り始めれば、204psの力強さはさらに明確に感じられるようになり、どんな速度域からもパワフルに加速してくれる。また、ハンドリングが全般的にカッチリとした印象になったことも特筆すべき。フルタイム4WDのおかげでタイトコーナーでも駆動力がしっかりかかってくれるのも嬉しいところだ。ちなみに、新型A5の4WDシステムは、これまでのセンターデフ方式から電子制御式多板クラッチによるトルクスプリッター方式に代わった結果、タイトコーナーでのアンダーステアが改善されたこともニュースのひとつである。 旧A4は多少ゴツゴツするところもあった乗り心地は、新型A5では大幅に改善されている。だからといってフワフワとした足回りではなく、ボディを常にフラットに保ってくれる設定は、いかにもアウディらしいものだ。 続いてA5 セダン TFSI quattroに乗る。全般的な印象はアバント TDIとよく似ていて、乗り心地は快適。しかも、TDIでいくぶん聞こえていたエンジンノイズがTFSIではまるで気にならなくなるくらい、キャビンの静粛性は圧倒的。エンジンの回り方もより滑らかなうえ、ワインディングロードではエンジンの軽さが味方して軽快なハンドリングが楽しめる。 ガソリン・エンジンにも優位性はあるのだけれど、TDIと違ってMHEVプラスを備えていないせいか、発進時に意外なほどもたつくことがあった。また、追い越し加速などのシーンでも、TDIほどの力強さが感じられないのは事実。したがってTFSIにするか、TDIを選ぶかは悩ましいところだ。 個人的に、EV化を強力に推し進めるアウディからはもう新しいエンジン車が出てこないのではないか？ と、不安に思っていたが、ついに登場した新型A5が、期待以上の完成度に仕上がっていたことはアウディ好きとして嬉しい限り。 アウディらしい真面目なクルマ作りを、今後も期待したい。