【特集】「あんだは、なすてロミオなのっしゃ」東北弁で演じるシェイクスピア 方言にかける想い
「ロミオとジュリエット」のアノ台詞は東北弁だと…
代表作「ロミオとジュリエット」の有名なセリフ、「おおロミオ、ロミオ、あなたはなぜロミオなの」 それが“下館シェイクスピア”では… 下館和巳さん 「『ろみお、あんだはなすてろみおなのっしゃ』って言うと仙台の客は笑う。あれがもし標準語で語られていたら、シンパシーを感じられなかった」 観客から共感を得る一方で、東北弁シェイクスピアは当初、東京の演劇界などから猛烈な批判を浴びたと言う。 下館和巳さん 「演劇界では方言は亜流。冗談でやっているんでしょと。シェイクスピアに対して冒涜だと」
「シェイクスピア時代のイギリス」と「東北」は似ている?
ではなぜ、東北弁で演じ続けてきたのか? それはシェイクスピアの時代のイギリスと東北が似ているからだと言う。 下館和巳さん 「シェイクスピアの頃は、南のイタリア・ギリシャ・フランスが西洋の中心。当時のヨーロッパの中でイギリスは日本のなかの東北」 大英帝国以前のシェイクスピアの時代、イギリスはヨーロッパの中でまだ弱小国とされ、それゆえに英語はイチ方言に過ぎなかったと言う。 上流階級はフランス語をしゃべり、英語は庶民の言葉… 英語で芝居が上演されることなどまれだった時代に、イギリスの庶民に誇りと自信を与えたのがシェイクスピアの英語劇だったという。 下館和巳さん 「観客にいたパブのおやじとか肉屋の丁稚とか溜飲を下げたと思う。俺たちの言葉だと。シェイクスピアも他の人も英語に自信を持っていなかった。我々が舞台の上で東北弁でしゃべらないのと似ている」 本場・イギリス人からも、東北弁シェイクスピアは受け入れられている。 演劇を観たイギリス人 「7回目です、下館先生の芝居を観るのは。奥州の歴史とシェイクスピアと一緒でそっくり」
方言には、震災で失いかけた「地域の誇り」を取り戻す力があった
下館さんが方言の力を再認識するきっかけがあった。 それは、東日本大震災。 震災の2年後から被災地を巡回上演すると、“方言の芝居を観たい”という被災者の笑顔と笑い声に包まれた。 下館さんは「方言には、震災で失いかけていた地域の誇りを取り戻す力があった」と振り返る。 下館和巳さん 「奇をてらっているとしか思われないが、シェイクスピアの力で、恰好が悪いと思われている東北弁に光を与えられている気がする。方言はいのちだから、なくすことはできない」 2019年、下館さんらはシェイクスピア劇の聖地・ロンドンのグローブ座に招かれ、東北弁で上演。 本場イギリスでも評価されるようになった。 そして今年、多賀城創建1300年に花を添えた東北弁シェイクスピア。 今、次なる構想が進んでいる。 それは、ロンドンのグローブ座のような劇場を建設すること。 この劇団を設立して以来の悲願だ。 下館和巳さん 「演劇ってなんなんだろう?それは、あたたかさ。人の匂いとかぬくもりを感じられる劇場をつくりたい。非常にめんこい木造の劇場を」