ミスをしない人材が評価される日本社会。あえて学びたいユニクロの「一勝九敗」の経営哲学とは
分不相応のすすめ #2
打率は低いが「1発」のある長距離ヒッターよりも、「1発」はなくても打率の高いアベレージバッターのほうが高く評価される日本社会。その背景には、「ミスしない」ことが求められる「サムライ」の価値観が存在していた。 【写真】サムライの社会では、失敗は「切腹」
行き詰まりを感じて思い悩む現代人必読のメソッドを、書籍『分不相応のすすめ』から一部抜粋してお届けする。
みんなに迷惑がかかるからミスは許されない
日本の文化を通じて作られる「分相応を良しとする意識」について、「過剰な集団意識」と「我慢の美徳化」という2つの特徴を紹介してきました。もうひとつ、3つめの特徴として、「リスク回避の最優先」があります。 日本では、子どもの頃の学校や習い事から、大人になってからの職場まで、さまざまな場面に共通して、「ミスしない」を重視する環境が多くあります。何か1つのことを特別に得意としているが苦手もある「一芸特化タイプ」よりも、まんべんなく苦手を作らずに何でもこなせる「そこそこ多芸タイプ」の方が、周囲から高評価を受けやすい傾向も強いでしょう。 表現を変えれば、打率は低いが「1発」のあるホームランバッターよりも、「1発」は打てなくても打率の高いアベレージヒッターの方が、学校でも、会社でも、認められやすく、褒められやすいのです。 「10回やったら、9回は失敗するけど、1回は大成功する」人よりも、「10回やったら、失敗は2回だけで、8回はちゃんとそこそこの成功を収める」人の方が、会社内で大事なプロジェクトを任されたり、出世しやすかったりすることは容易に想像できるでしょう。
ユニクロの「一勝九敗」の経営哲学
ベンチャー業界は、多産多死が当たり前とされていて、新しく作られた会社のうち、巨大ベンチャーまで飛躍できる確率は、極めて低いものです。それでも、運と実力をどちらも兼ね備えて、奇跡的な飛躍を遂げることを夢見て、多くの起業家が挑戦していく業界です。 また、新しいイノベーションを創ろうとするときも、沢山の失敗を経験することを覚悟の上で挑戦するのが前提となります。 ユニクロを「世界を代表するアパレル」まで飛躍させた柳井正さんは、新しいことに挑戦すれば10回に9回は失敗する、という「一勝九敗」を経営哲学としていることで有名です。※1 積極的に新しいことをやってみて、ダメならすぐに撤退して、10回のうち1回の大成功によって、数多くのヒット商品を生み出して、会社を飛躍させました。 しかし、日本は「ベンチャー大国」でもなければ、「イノベーション大国」でもありません。新興のベンチャー企業よりも、歴史が長く、安定成長を重視する大企業や中小企業が圧倒的に多い国です。 リスクを覚悟の上で、新しいイノベーションに挑戦するよりも、堅実に、改善・改良を積み重ねていく道を選びやすく、またその改善・改良を得意分野としています。「一か八かの大成功」は、フィクションの物語や、別世界の話としては面白くても、日本の多くのビジネスパーソンにとって自分事にはなりません。なぜなら、自分事である仕事の日常では、「ミスだけはしないで」と言われ続けているからです。