研修をしても、管理職のジェンダーバイアスがなくならない理由
■なぜジェンダーバイアスは改善しないのか 企業がバイアスを減らそうと時間と労力、リソースをそそいでいるにもかかわらず、いまだに女性のリーダーシップ職への昇進に効果が見られないのはなぜだろうか。 最近、スタンフォード大学ヴイエムウェア・ウィメンズ・リーダーシップ・イノベーション・ラボが発表した研究は、業績評価におけるバイアス軽減を目的にマネジャー向けの研修を行う一流プロフェッショナルサービス企業(仮称PS1)の協力の下で行われた。その研究結果として、マネジャーは従業員の特徴や行動を記述する際の差異(「見方のバイアス」)は抑制できたものの、そうした特徴や行動に報酬を与える際の差異(「評価バイアス」)には気づきにくいことが明らかになった。 筆者らが携わったこの研究は、ジェンダーバイアスの改善がほとんど進まない理由について、洞察を与えてくれる。それは、ジェンダー平等を前進させる取り組みの大半が見方のバイアスに集中する一方で、評価バイアスが前進を阻んでいるということだ。リーダーはこの両方のタイプのバイアスを考慮して、介入策を設計しなければならない。 本稿では、PS1との共同研究から見方のバイアスと評価バイアスについて明らかになったことと、マネジャーがバイアスを改善して職場のジェンダー平等を推進する方法について述べる。 ■バイアスを解明する この研究では、まずPS1の業績評価プロセスにおけるバイアスの解明に着手した。PS1は、ジュニアパートナーレベルでは女性のリプレゼンテーション(特定集団にジェンダーや人種などの代表が存在することやその割合)がそれ以下のレベルと比べて著しく低いことを発見した。筆者らは、同社から提供されたある年の40件の業績評価の内容と数値評価(ジュニアパートナー職の男女半数ずつ)を分析し、ジェンダーリプレゼンテーションの格差が、評価バイアスの傾向によって説明できるかどうかを見極めようとした。数値評価は1~5の段階で、5と評価されると昇進や昇給やボーナスを与えられる可能性が高まり、3以下では低くなる。 PS1の評価のいくつかの領域で、偏見が認められた。たとえば、従業員のコミュニケーションスタイルについての記述にジェンダーバイアスの証拠があった。具体的には、マネジャーは男性について、コミュニケーションスタイルを「おとなしすぎる」と表現することで、強気で主張する男性としての理想を満たしていないことを遠回しに非難する傾向があった。 また、仕事へのコミットメントの期待についてもジェンダーを反映した評価バイアスがあった。男性は長時間労働、頻繁な出張、転勤、個人生活を犠牲にして仕事の要求を満たすなど、仕事へのコミットメントに関連する行動を示さないと、女性の場合よりも低い評価を受けた。だが、稼働率(クライアントに請求できる利用時間の割合)については、女性は男性よりも厳しく評価された。労働時間の大部分をクライアントに請求するのが最も有能な従業員であるとされる企業では、請求可能な時間が不十分という理由で女性にペナルティを与えるパターンが見られた。これは、マネジャーが女性はキャリアへのコミットメントが低いと見なしていることを示唆する。 ■解決しやすい問題に対処する PS1は、筆者らのリポートと勧告を受けて、マネジャー向けの研修による介入を設計した。評価の際のテーマや用語の男女差を減らすようにマネジャーを訓練して、最終的には昇進の判断を左右する業績評価における不公平に対処しようとした。 PS1がマネジャーの研修を実施してから2年後、筆者らはバイアスのパターンに変化があったかどうかを確認するため、新しい業績評価を分析した。 マネジャーはいくつかの見方のバイアス、つまり従業員についての記述におけるジェンダー差を排除できるようになっていた。たとえば、コミュニケーションスタイルやパーソナリティに関するコメントのジェンダーによる違いが減った。また女性を「リスクのある投資」と表現したり、具体的な根拠のない基準で比較したりすることが減り、具体的な数値指標で評価することが増えた。 ■しぶとく残る評価バイアスを見つけ出す PS1は見方のバイアスの多くに首尾よく対処したとはいえ、いくつかの明らかに不平等な評価のパターンが残存していた。これらのパターンの共通点を分析すると、主にマネジャーがジェンダーに基づいて従業員の行動を評価するというバイアスであることがわかった。 たとえば、男性の業績評価に具体的なプロジェクトの仕事が記述される場合は、最高ランクの評価を受けることが多かった。一方、女性の業績評価に同様の記述があっても、それに対する報いはなかった。女性が携わったプロジェクトの現状、影響力、活動が取り上げられても、男性のように評価が著しく向上することはなかった。介入後、マネジャーがこうした記述をする頻度は男女ともに増えたとはいえ、この差は埋まらなかった。 また、協力的であるとか「チームプレーヤー」であるなどの共同行動について言及される頻度に男女差はなかったが、高い評価がつけられるのは男性のほうが多かった。マネジャーは男性の共同行動を戦略的な最終収益への影響と関連づけるが、女性の共同行動については、チームをサポートしている証拠としてのみ解釈し提示している。 ある男性の業績評価では、共同行動とPS1の成功を関連づけて、以下のようにフィードバックしていた。「(氏名)はクライアントのリーダーと緊密なカウンセリング関係を築いている。(中略)このエンゲージメントが実質的な最終収益に影響をもたらし、クライアントの驚くべき成果に貢献した」 一方、女性の共同行動はビジネスの成果と関連づけられず、本人のパーソナリティや価値観の反映として記述されていた。「(氏名)は大変に前向きなリーダーで、価値観と思いやりのロールモデルと見なされている。彼女の情熱、エネルギー、目的意識は(中略)誰からも称賛されている。(中略)仲間に対して私心なく接し、協力を惜しまない、素晴らしい同僚であり、彼女がつくり出す環境に同僚を取り込んでいる」