【オールブラックス来日記念短期集中連載③】レジェンド・大畑大介に聞くNZ代表の魅力と注目選手
オールブラックスが対峙する『リポビタンDチャレンジカップ2024』まで待ったなし。いよいよ今週末キックオフを迎える。短期集中連載の最終回では、神戸製鋼で活躍し、日本代表としてテストマッチ通算トライ記録69を持つ日本ラグビー界のレジェンド・大畑大介がオールブラックスの魅力や注目選手などを語り尽くす。 【PHOTO】大畑大介、サム・ケイン ――オールブラックスの魅力を伺いたいのですが。 「ハカを含めて、すべてでしょう!」 ――大畑さんはテストマッチ58試合に出場していますが、オールブラックスとの対戦は一度もないんですよね。 「そうなんです。僕の現役時代は強豪国であるオールブラックスとはテストマッチを組めなくて、『ラグビーワールドカップ(RWC)』で対戦するしかありませんでした。出場した2度(1999年、2003年)の『RWC』ではその機会がなくて……。オールブラックスは憧れのチームであり、いつか対戦したいと思っていたので、2011年の『RWC』で日本代表がオールブラックスと同じ予選プールに入った時は羨ましさがありましたね」 ――オールブラックスは憧れのチームだったと。 「世界中のラグビー少年が憧れているんじゃないですかね。僕の場合、小学3年からラグビーをはじめたのですが、6年生の時に第1回『RWC』が行われたんですよ。ラグビーにワールドカップという大会ができたことも衝撃でしたし、優勝したオールブラックスの強さにも驚いて。その数か月後、オールブラックスが来日し、花園と国立で日本代表と試合をしたんです。この2試合は録画して、それこそビデオテープが擦り切れるくらい見ましたね。オールブラックスは強くて、ボールが動いて、面白いラグビーをしていて。子どもながらに黒のジャージは強さの象徴だと思いました。だから、社会人3年目の時に、7人制日本代表としてセブンズの『ワールドカップ』でオールブラックス・セブンズ(7人制ニュージーランド代表の愛称)と対戦した時は、黒のジャージに若干ビビっちゃっいましたね(笑)」 ――ビビっちゃいましたか(笑)。 「ビビりながらも何とかインパクトあるプレーをして爪痕を残してやろうと考えていたんですけど、相手はなんせオールブラックス・セブンズです。それに試合メンバーには『暴走機関車』の異名を持ち、1995年、1999年の『RWC』で大活躍したジョナ・ロムーがいましたから。結局、次の試合に向けて体力温存の意味もあり、何もできずに前半で交代することになりました」 ――ジョナ・ロムー。懐かしいですね。好きだった選手や印象に残っている選手はいますか。 「第1回『RWC』に出場した時のJK(ジョン・カーワン)。オープニングマッチとなったイタリア戦での90m独走トライは忘れられないシーンです。あと、子どもの頃はSOでプレーしていたので、司令塔を務めていたグラント・フォックスやフラノ・ボティカも好きでした。けど、なんといってもジョナ・ロムーが強烈な印象としてありますね。FW並みのサイズなのに足がめちゃくちゃ速くて、しかも体が強い。タックルにいった選手が吹き飛ばされていましたから。彼とは同い年で、同じウィングでしたし、15人制のテストマッチで対戦したかったですね」 ――試合ではどうでしょうか。 「優勝した第1回大会のワラビーズとの決勝戦も印象深いですし、2007年の第6回大会でフランスに敗れた準々決勝も記憶に残っています。特に2007年の大会は、優勝候補の大本命とされながら、調子が良くなかったフランスに敗れて過去最低の成績に終わり、逆にフランスはオールブラックスとの勝利で覚醒し、決勝まで昇りつめた。オールブラックスの試合はドラマがあるんですよね。だから、勝っても負けても印象に残ります」 ――昨年の『RWC』フランス大会でもそうでしたね。準々決勝で試合終了間際、5分にわたるアイルランドの猛攻を凌いで勝利しましたが、雨の決勝戦では互いに譲らず南アフリカに1点差で敗れました。オールブラックスは2大会連続で優勝を逃すなど、世界最強ではなくなっています。それについてどう思われますか。 「今、世界ランキング3位ですよね。『ザ・ラグビーチャンピオンシップ(TRC)2024』でもアルゼンチンに敗戦するなど、負けることが多くて、正直、寂しい気持ちはありますが、世界中の代表チームがオールブラックスをターゲットにしていますし、勝ち続ける難しさもあるので仕方がないことではあるのかなと。オールブラックス自体は別に弱くなっていないですし、面白いラグビーをしていて、選手の質も高いです。ただ、その他の代表チームが目覚ましい進化を遂げていて。昨年のフランス大会でもフィジーがベスト8に進出し躍進しましたし、ポルトガル代表は2度目の『RWC』出場で初勝利を飾り、レベルが上がっていることを感じることができました。世界のラグビー界にとって、各国代表チームの実力が拮抗してくることは悪いことではありません。ひとつのチームが勝ち続けるよりも、どこが勝つのかわからない方がラグビーファンも楽しいじゃないですか。ただ、オールブラックスはオールブラックスですからね」 ――「オールブラックスはオールブラックス」というのは。 「オールブラックスは特別なチームですし、ある種のブランドですから。その輝きは世界ランキングが3位になろうとも色褪せない。実際、チームの目指すところは2027年の『RWC』でウェブ・エリス・カップを奪還することです。その過程で勝ち続けることができればいいのですが、主力が代表を引退するなど、世代交代もある中でなかなかそううまくはいかない。オールブラックスは、本国で熱狂的に応援されていて、関西でいうところの『負けが許されない阪神タイガース』です。負ければ叩かれるので大変だと思いますね」 ――『負けが許されない阪神タイガース』(笑)。そのようなチームを2年前の対戦では日本代表があわやというところまで追い詰めました。10月26日(土) 『リポビタンDチャレンジカップ2024』で日本代表が勝利するにはどういう戦いをすればいいでしょうか。 「『超速ラグビー』を掲げる日本代表は相手より速く起き上がって、ポジショニングして、速くディフェンスする。それをキックオフからノーサイドの瞬間まで繰り返すこと。高いプレッシャーをかけ続けることで、相手の反則につながります。そこでしっかりスコアして、得点を重ねていく。撃ち合いでオールブラックスを上回ることはかなり難しいと思いますので、ロースコアに持ち込むことで勝機が生まれるんじゃないかな」 ――大畑さんが注目するオールブラックスの選手は(※取材日は試合登録メンバー発表前の10月16日)。 「昨シーズン、コベルコ神戸スティーラーズでプレーしたアーディ・サベアに、今年で代表引退を発表している東京サントリーサンゴリアスのサム・ケイン、今シーズン、リコーブラックラムズ東京でプレーするTJ・ペレナラ……。ほんとタレントだらけですからね。その中でひとりを挙げるとしたら、僕と同じポジションのウィル・ジョーダンですね。昨年の『RWC』でも8トライをマークしましたし、『TRC』でも好調ぶりを見せています。WTB、FBでプレーでき、バックスリーでは世界No.1だと思いますね。頭の良い選手で、トライを取るだけでなく、ボールを持っていない時の動きも素晴らしい。僕はボールを持った時の能力で勝負していましたけど、彼はプレーの引き出しが多くて、痒いところに手が届くプレーヤーだなと感心させられます。まさにお手本のような選手なので、バックスリーでプレーしている子どもたちや学生は彼の一挙手一投足に注目してほしいですね」 ――『リポビタンDチャレンジカップ2024』日本代表×オールブラックスの見どころは。 「オールブラックスの試合は一瞬たりとも目を離すことができません。隙があればどこからでも仕掛けてくるチームなので、試合途中でトイレすら行けない(笑)。そういうチームに対して日本代表がキックオフからフルスロットルでチャレンジしていくところが見どころになってきます。もちろん、テレビでの観戦もいいのですが、ぜひ試合会場でオールブラックスの凄さや日本代表のチャレンジを見て感じてほしい。2年前の対戦では国立に6万5000人もの観客が集まり、その応援が選手を後押しして接戦が生まれました。ラグビーは選手だけではなく、観客も“試合”という作品の中の一部です。観客の作り出す会場の雰囲気で選手の好パフォーマンスが引き出されます。熱い試合になることは間違いありませんので、オールブラックスの醸し出すオーラをはじめすべてをぜひ体感してほしいですね」 エディー・ジョーンズHC率いる日本代表がオールブラックスに勝利し、歴史に名を刻むのか。それともオールブラックスが8連勝で切って落とすのか。『リポビタンDチャレンジカップ2024』は10月26日(土) ・日産スタジアムで開催。チケット発売中。 取材・文:山本暁子 撮影:村瀬高司