「『たまごっち』に着想を得ました」 “人工子宮”が妊娠出産する世界… そのとき親はどんな判断を迫られるか
もっと妊娠・出産を描く作品が映画化されるべき
――フェミニストたちがポッドの是非についてデモを行うシーンがありますよね。短いシーンではありますが、そうした細部をしっかりと描いてくれることで「人工子宮による妊娠・出産」の説得力が段違いに上がっていると感じました。企画によっては、予算削減のためにカットされることもあるでしょうから。 予算の点でいうと、実はどうしても実現できなかったことが、ニューヨークでの撮影でした。私は20年以上ニューヨークに住んでいるのでここでやりたかったのですが、パンデミックの時期にニューヨークで撮影しようとすると予算が膨れ上がってしまうのです。そこで今回は、ベルギーで撮影をしました。スパイク・ジョーンズ監督も『her/世界でひとつの彼女』で、上海を近未来のニューヨークに見せていますしね。彼らの方はこちらより予算がありますが、ベルギーでもニューヨークの街を再現できるはず、と信じて取り組みました。 ただやっぱり心残りはあって、というのもニューヨークという街には“層”があるからです。アール・デコの建築物が遺っていたり、50~60年代の建物もあったりして――。未来を描くとき、そこに人間が築いてきた過去の歴史を感じられるかどうかが重要だと思っているので、ニューヨークで撮影できなかったことは唯一残念でした。 ――日本国内の作品を観ていると、妊娠・出産・育児の描写が甘い作品がまだまだ見受けられます。バーセス監督ご自身は、クリエイター/観客として映画におけるこれらの描写をどう見ていますか? 成熟してきたのか、まだまだなのか……。 西洋にもなかなかないと思います。妊娠自体が描くのをタブー視されているようなところがあって、今回は未来の妊娠の形を取りました。妊娠・出産がつらい経験として描かれがちですが、そうではなくもう少し見た人がとっつきやすいものにしたいと思っていたのです。 先ほど挙げた「すばらしい新世界」でも少しその描写がありますが、もっともっと妊娠・出産がテーマとして話されるべきだし、映画化されるべきではないかと自分も思っています。女性監督が増えてきましたし、第78回ヴェネツィア国際映画祭(2021年)で金獅子賞(最高賞)を受賞した『あのこと』のような映画も登場しました(※中絶が違法だった60年代フランスの妊娠を描いている)。これからもっともっと、増えていけばいいなと思っています。 ソフィー・バーセス(Sophie Barthes) コロンビア大学出身。映画制作に携わるフランス系アメリカ人。監督デビュー作は『COLD SOULS(原題)』(09・未)。同作はサンダンス映画祭にも出品されている。長編2作目はミア・ワシコウスカ主演の『ボヴァリー夫人』。同作はテルライド映画祭でのプレミア公開を経て、2014年に一般公開。
SYO