【京王杯2歳S回顧】コラソンビートがレコードV 展開が問うたマイラー適性
1400mは流れ次第で適性が変わる
ボンドガールの新馬戦がとんでもないことになった。チェルヴィニアに続き2週連続重賞勝利など、すでに報じられているので詳細は省くが、コラソンビートの勝利がまたもボンドガールの価値を高めることになった。だが、このレースで価値を高めたのはあくまでコラソンビートだ。 【アルゼンチン共和国杯2023 注目馬】東京コースは複勝率100%、得意舞台で能力全開だ！ SPAIA編集部の注目馬を紹介（SPAIA） 勝ち時計1:20.6は2歳レコードだが、このレースでこれまで20秒台を記録したのは2回しかなく、19年1:20.8でレコードを樹立したタイセイビジョンは朝日杯FS2着、アーリントンC1着、その後は1200m重賞2着3回と活躍した。次に20秒台を記録したのは22年オオバンブルマイ。こちらもアーリントンCを勝ち、NHKマイルC3着、さらに先週末、豪州のザ・ゴールデンイーグルで5億円を稼いだ。夢のある話だ。ともあれ、2頭とも翌春のマイル戦線で活躍した。牝馬のコラソンビートも先輩たちに続きたい。暮れのGⅠ、そして桜花賞が現実味を帯びてきた。 短期間の輸送などを考え、ファンタジーSではなくこちらに回ったのが吉と出た。そのファンタジーSがある影響から、牝馬の優勝は1998年ウメノファイバー以来25年ぶりとなった。それにしてもこの秋は2、30年前の競馬を想起させる記録が多い。これもトレンドだろうか。 一方、1400mの難しさも思い知った。京都のファンタジーSは大波乱だったが、この距離は適性が読みにくい。速い流れにならず軽さを求められると、1200mを得意とするスプリンターが押し切るが、ひとたび速く流れると、最後にスタミナを問われ、スプリンターは苦しくなりかわってマイラーが台頭する。特に最後の直線が長い東京はこの傾向が顕著で、春の京王杯SCも含め、攻略のヒントになる。
2着ロジリオンも暮れが楽しみ
今年はジャスパーノワールが先行し、前半600m34.2。これは京王杯2歳S史上もっとも速く、1200mの重賞で好走した馬たちは追走で一杯になってしまった。この流れから最後に速い脚を使うには、スタミナの裏づけが必要になる。言いかえれば、上がり2位33.2でゴールまで伸びたコラソンビートはマイルもまったく苦にしないといえる。前半の速い流れをついていけるスピードと最後に伸びる末脚。総合力を判定するレースになっただけに、暮れから春と楽しみしかない。これが重賞初タイトルの加藤士津八調教師、新種牡馬スワーヴリチャードと早くもGⅠタイトルに手をかけた。 そんな見立てである以上、クビ差まで迫った2着ロジリオンもまだまだ可能性が広がる。コラソンビートの一列後ろから上手く立ち回って、上がり最速33.0はマイラーとしての強さのあらわれだ。父リオンディーズはわずか5戦で引退し、その適性をつかめなかったが、産駒を見る限り、芝もダートもこなすキングカメハメハ系らしいオールラウンダー。芝だと1800mの勝率が高く、マイル前後で強みを発揮する。ロジリオンも朝日杯FSで人気を落とすようなら、むしろ買いたい。 3着オーキッドロマンスは上位2頭とは異なり、戦歴からスプリンターと目されるだけに、価値を高めた。このペースで一旦先頭まであり、もう少し緩めの流れだったら、勝ち負けまであったとみる。さすがに最後は疲れてしまったようだ。レースラップの後半600mは11.6-11.8-11.5で、最後にひと伸びできるスタミナはなかった。だが、コラソンビートとはクビ、ハナまで粘っており、この経験から1400mなら戦える。鍛え方次第でマイルも守備範囲になるのではないか。 スプリント重賞で好走した馬たち、ミルテンベルク、アスクワンタイム、ゼルトザームは5、10、11着に敗れた。マイラーに向いた流れだったことを考えれば、悲観しすぎることもない。現状は体力的に上位馬たちには及ばなかったが、1200mや遅い流れの1400mなら十分巻き返す可能性はある。競馬は適性の世界。ひとつの勝負で順位づけするのは早計というもの。今回の結果なら、ここから先は陣営も割り切ってレースを選べるのではないか。 ライタープロフィール 勝木 淳 競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』（中央競馬ピーアール・センター）にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』（星海社新書）に寄稿。
勝木淳
