進む南西諸島の防衛力強化 元陸将補が解説する日本の現状と今後の展開
防衛省は中国の軍事的台頭などを背景に南西諸島の防衛力強化を続けている。陸上自衛隊の“空白地域”を解消すべく、2016年から23年にかけて奄美大島や沖縄・先島諸島に駐屯地を開設。「南西シフト」の現状や今後は。元陸将補で、日本大学危機管理学部の吉富望教授(64)=安全保障=に話を聞いた。 【写真】南西諸島の主な陸上自衛隊部隊
-2010年の「防衛計画の大綱」で南西諸島の防衛力強化が打ち出された。 「冷戦時代は旧ソ連の対応で北海道に部隊を重点配備してきたが、00年ごろから中国の軍事近代化が急速に進んだ。トリガー(引き金)は中国で、その流れは今も続いている。中国の国防予算は日本の4倍以上。米国も簡単には勝てないという危機意識がある」 -防衛省は南西諸島に訓練場や補給拠点の新設を検討している。 「南西シフトはまだ入り口の段階だ。部隊を配置し、最初の一歩を踏み出したにすぎない。訓練は部隊の質を高めるために不可欠だが、南西諸島には訓練場がほとんどない。大きな訓練は大分の日出生台などで実施している。部隊の負担は大きく、訓練中は空になる。抑止力の面でも問題だ」 「有事の際は弾薬や装備品などの補給態勢が命運を分ける。ロジスティクス(後方支援)がないと勝てない。島しょ部は外からモノを運ぶのが難しく、輸送の態勢を整えるとともに、それぞれの島で備蓄しなければならない。通信ネットワークの充実も重要になる」
-部隊配置の現状は。 「奄美大島の場合、配置されている警備隊は地対艦、地対空誘導弾部隊を守るのが仕事だ。防衛から国民保護までを考えると、隊員は明らかに不足している。抑止力を高めていくため、今後は質と量を充実させることになるだろう」 -近年は南西諸島で日米訓練が目立つ。 「対中国抑止の必要性や、どう抑止するかの方法論に加え、戦略の中で南西諸島が極めて重要という認識が日米で共通している。自衛隊だけでは中国軍に太刀打ちできない。米軍の関与があるからこそ抑止力が高まる。訓練の効果を上げると同時に、日米の抑止力を中国側に示す狙いもある」 -台湾有事の際、米軍がミサイル部隊を南西諸島に展開させる可能性は。 「米側にとっても南西諸島は重要で、現時点では必要となる部隊を展開し自衛隊とともに守るというスタンスだ。自衛隊と米軍は共同作戦計画がないとうまく協力できない。それを検証するために訓練をする。それぞれの計画だけでは部隊の運用が合わなくなる」
-反撃能力(敵基地攻撃能力)に活用する長射程ミサイルの配備先として南西諸島は有力か。 「離島は(ミサイルを発射する)重車両に耐えられない道路や橋が多い。戦略的なミサイルを機能させるための弾薬備蓄やインフラを相当整備しなければならない。南西諸島が候補にならないという保証はないが、九州本土の可能性が高いとみている」
南日本新聞 | 鹿児島