「頑張ってるのに会社で評価されない…」→ノンスタ石田明の「シメの雑炊」のたとえがしっくりくる!
● センスが悪いと思われたくなくて「こいつら面白くない」と言ってしまう人もいる ――自分のスタイルに思い入れもこだわりもあって、「俺が一番面白い」と切磋琢磨する芸人さんたちが、他人の意見を受け入れるって本当に身を切るような痛みも伴うんでしょうね。 石田:NSCには、僕だけじゃなくて芸人講師が増えてるんです。この人たちは、生徒に「面白くない」とはあんまり言わない。 芸人は、若い芸人を見て「こいつらはこれを面白いと思ってやってるんや」と。けれど一般的には受けないとなったときに、これをどうやってより面白く見せるか、笑ってもらいやすくできるか、みたいな角度で入っていく。それこそ、なんか可能性ばっかり見てるみたいな。それが芸人です。 好きな人は好きっていう笑いはいっぱいあるわけで。キングコングでは笑えるけどノンスタでは笑えない人だって、いるんですよ(笑)。ただ味覚が違うだけなのに、自分がセンス悪いと思われたくないので「こいつらおもんない」って言っちゃう。ワインが好きじゃないだけなのに、「ワインまずい」「ワインわかんない」って。 ――自分がセンス悪いと思われたくない一心で、批判までしなくてもいいですよね。 石田:お笑いがファッションになっている、というのはあります。誰々が面白い、マニアックな芸人さんが好きなんです、なんて発言がファッションになって、ちょっとお笑いがずれているなと。でもマニアック発言って、僕からは「一人で焼肉行くんです」と同じ、「違いがわかります」アピールに見えていて。
● 「覚悟の上で、コンプラ違反でクビになる」「上り詰めてからルールを変える」 ――昨今のお笑いの空気でいうと、そもそも社会全体がコンプライアンス違反への懸念で萎縮してしまい、できなくなってしまった表現も少なくないですよね。「コンプラ」なるものとどう付き合っていけばいいですか。 石田:自分で責任取るしかないんですよね。容姿いじりがどうだという時代に、僕らはゴリゴリやっているわけですよ(笑)。僕らもわかってやっている。いまここでしっかり、自分たちのお笑いを育んでいかないと。 いろいろ言われることもあります。だけどこっちがこれをおもろいと思ったのが先、コンプラという時代の意見はあとからやってきたわけで、これもまた「他人の意見をどう一度は自分に通すか」です。自分の信念がぶれていないことが大事です。 この時代にウエストランドが出てきて、いわば生レバー出したらあかん時代に生レバー出したわけじゃないですか。ズバッと毒舌を吐く、けれどいま世の中の評価は高い。どう生きたいのか、どうやりたいのか……自分にウソなく生きたいのであれば、一つの手としては“覚悟した上でコンプライアンス違反でクビになる”。上から何か言われることをはねのけて、最終的には自分で起業したらいいんだから、なんて意見もありますよね。 でも逆に、「踊る大捜査線」の室井さんじゃないですけど、順応してるふりをしておいて、上に上りつめてから中からルールを変えるっていうのももう一つの手だと思うし。 ● この世代だからこそ見えること、できることがある ――芸人さんも、会社員も、みんな組織の中でどう生きるかというところでは同じなんですね。 石田:だから僕なんかは、吉本の上の人たちがやろうとしていることにだいたい噛んでるんです。それを「ヘコヘコしやがって」と悪く思っている人もいると思う。でも僕の中では芸人がより儲かる仕事の仕組みを作れるようにと、いまあんまり仕事のない子たちにもちゃんと仕事が回るようにと、自分なりにとりあえず自分がやれる範囲のことを全部やって、動いているつもり。「見守ってください」、そういう気持ちです。 ――いろいろ経験して生き延びてきたこの世代だからこそ、見えることやできることがある。石田さんのご著書のタイトルではないですが、自分の人生にも「答え合わせ」をして振り返り、自分で自分のやり方に責任を取ることのできる年代になれた、と肯定的に考えるべきなのかもしれませんね。
河崎 環