騎手がレース中に落馬し死亡… 労災の対象にならない「個人事業主の補償」はどうなっている?
多くの個人事業主をカバーする「労災の特別加入」の制度
労災の特別加入の制度とは、労働者(被用者)でなくても、業務の実態等からみて、労働者に準じて保護することがふさわしいと見なされる人が、労災保険に特別に加入できる制度である。 以前は、従業員を雇用する中小企業の代表者や役員、建設業・運送業等の「一人親方その他の自営業者」に限って認められていた。しかし、2021年以降、「一人親方その他の自営業者」に「あん摩マッサージ指圧師」「はり師」「きゅう師」も含まれるようになった。また、新たに、以下の人も特別加入制度の対象に加えられてきている。 【特定作業従事者】 ・特定農作業従事者 ・指定農業機械作業従事者 ・国または地方公共団体が実施する訓練従事者 ・家内労働者およびその補助者 ・労働組合等の一人専従役員(委員長等の代表者) ・介護作業従事者および家事支援従事者 ・芸能関係作業従事者 ・アニメーション制作作業従事者 ・ITフリーランス 【海外派遣者】 ・日本国内の事業主から、海外で行われる事業に労働者として派遣される人 ・日本国内の事業主から、海外にある中小規模の事業に事業主等(労働者ではない立場)として派遣される人 ・開発途上地域に対する技術協力の実施の事業(有期事業を除く)を行う団体から派遣されて、開発途上地域で行われている事業に従事する人 このように、かなり広範な業種・働き方の個人事業主が、労災保険でカバーされるようになった。その背景には、名目は独立の個人事業主であっても、実態は労働者に近いというケースが増えているということがある。 もしも、労災の特別加入が認められるならば、必ず加入することをおすすめする。
共済も労災特別加入もない個人事業主の「自衛手段」
では、騎手のような共済も、労災特別加入の制度もない個人事業主はどうすればいいのか。その場合には、民間の保険に加入することが考えられる。 後遺障害を負った場合等の「障害年金」や死亡した場合の「遺族年金」といった公的保障はあくまでも最低限のものにすぎない。そこで、不足分について、民間の保険の活用が役に立つケースがある。 特に有効なのは、割安な保険料で大きな補償・保障を得られる「掛け捨て」の保険である。大きく分けて2つのタイプがある。 第一に、働けなくなったときに備える保険である。「所得補償保険」と「就業不能保険」がある。いずれも、保険金額がたとえば「月10万円」「月20万円」などと月単位で設定され、給料のように受け取れるしくみになっている。しかし、給付の条件等に違いがあり、両方加入することが望ましい。 所得補償保険は、一時的な病気・ケガでドクターストップがかかったときに保険金を受け取れる。「1か月=30日」として日割り計算で支払われる。あまり知られていないが、休業すると直ちに収入が絶たれてしまう個人事業主にとっては非常に有効な保険といえる。 これに対し、就業不能保険は、一時的な病気・ケガでは済まない所定の「就業不能状態」になった場合に、保険金を受け取れる。比較的新しい保険であり、就業不能状態等の給付条件は保険会社により大きく異なる。次に述べる生命保険(収入保障保険)の特約として付加できる場合がある。 第二に、死亡した場合の生命保険、特に「収入保障保険」である。これは、死亡した場合に遺族が保険期間中、毎月一定額を受け取れる。何事もなければ保険金の総額が減っていくので、その分、保険料が割安に設定されている。保険会社によっては、前述の就業不能保険を特約として付加できる。 どのような業種でも、業務上の事故等により死傷する可能性はゼロではない。不測の事態が起きたときにどのような補償・保障を受けられるようになっているのか、確認した上で、十分な自衛手段をとっておくことが求められる。
弁護士JP編集部