日本製鉄のUSスチール買収には大きな意味がある…「日米同盟」と「新冷戦相場」の強度を占う試金石
「新冷戦相場」で重要な日本製鉄のUSスチール買収
評価は人それぞれ(例えば階級や立場、思想によって)異なるものだろうが、岸田首相が演説の名手であることは、そのような差異は別にして多くの人が認めるものではないだろうか。少なくとも、筆者はそう感じている。それは凶弾に倒れ無念の死を遂げた安倍元首相への弔辞でも感じた感想だが、なにより今回の訪米で岸田氏が行った米国上下両院の合同会議での演説を聞いてより一層その観を強くした。 【一覧を見る】運用資産1億円の投資家が保有する115銘柄を一挙公開…! その演説で岸田氏は米国がこれまでたった独りで戦後国際秩序を守ってきたことが米国民に孤独感や疲弊を感じさせていると語り、しかしいまや我々が、日本が、トモダチとしてその隣に立ち、自由、民主主義、法の支配を守るため、これまでの「控えめな同盟国」から、強くそのような価値観にコミットした同盟国に自らを変貌させた、と語った。そして、その演説の最後には、「私たちはこの先もそうしたグローバルパートナーであり続けるでしょう」と誓ってもみせた。 安倍氏から菅氏、そして岸田氏と続く政権(後世の歴史家は安倍―岸田時代と呼ぶのかもしれない)が選んだのは、米国との同盟強化であり、それは我々が嘗て昭和初期に掲げてみせた「有色人種の白色人種支配に対する抵抗と解放」という軸(王毅氏の発言などに典型的な、もしかしたら隣国の知識層の一部がデジャブのように21世紀の現在まさに掲げてみせる軸)ではなく、岸田氏の演説を借りれば「人権が抑圧された社会、政治的な自己決定権が否定された社会、デジタル技術で毎日が監視下にある社会への強い拒絶」という軸、を選んだという歴史的な事実ではないか、と思う。 冷戦は終わった、と夢見られた時代は残念ながら過ぎ去ってしまった。そして我々は「自由や民主主義、法の支配」を選びその陣営でトモダチと肩を組む、そうであるならば、我々は米国を中心とした自由と民主主義を掲げた世界(もちろんそれは不完全で矛盾を孕む世界だが、その弱さを自覚してもいる世界)が、そうではない世界に優越し、この自由が、そして平和が保たれるよう努力していかなくてはならない。新しい冷戦に勝ち抜かなければならない。 以前から書いているが、そう考えればこの相場は「新冷戦相場」であり、そうした世界を築いていく動きを株価として評価し、束ね、試行錯誤はあっても適切な資源配分を行わせようとする。そして、アジア太平洋地域におけるこの陣営の重要な拠点は、そうは言っても我が日本であり、そこにこれからの世界の覇権を占う基幹産業の生産拠点をもう一度再興させるというのは、世界が結局はパワーゲームで成立する、と考えた場合、この陣営にとっての重要な打ち手となる。 その認識があるからこそ、米国のもう一人のトモダチ(日本以上の旧友・親友)である英国を経由した資金が日本株に流入し、一方、米国からは半導体やIT企業の直接投資が加速しているのだ、と読み解くことができるだろう。 さて、前置きが長くなったが、その意味で重要性・象徴性の高い案件が、昨年12月18日に発表された日本製鉄のUSスチール買収案件になる。その成否こそ、日米同盟の強度を占うものだろうし、同時に「新冷戦相場」の強度を占うものになるだろう。