プールの底で揺らめく一瞬の夏、高校演劇リブート映画化企画第2弾!「水深ゼロメートルから」
女性ゆえのストレスや悩みを繊細に描く
原点の演劇はその後、東京・下北沢の小劇場「劇」で2021年に【高校演劇リブート企画】として上演され、このときオーディションで選ばれた濱尾咲綺、仲吉玲亜、花岡すみれが、映画でも同じ役を続投。時間をかけて練り上げてきた役だけに、それぞれが抱えるストレスや悩みを繊細に表現していて、その演技は新鮮だ。 劇中で彼女たちが話す、野球部のクスノキに代表される男性は、あるときは自分にとっての仮想敵であり、あるときにはほのかな恋の相手でもある。いずれにしても自分とは違った存在として男性は認知され、彼女たちにとっては心が伸び伸びできないすべての元凶が男性にあるように思える。高校生の男女の恋愛に焦点を絞ったキラキラ映画が流行したことがあるが、ここでは男性という存在のうざったさや、男女平等など大人が言う絵空事だという実感が描かれていて、キラキラ映画のように男性は女性にとっての王子様ではない。だからと言って、特にこの時期体力的に劣る女性をネガティブに捉えるのではなく、そんな男主導の社会の中で自分たちはどう闘って生きていくのかという、若さゆえのエネルギーの発散に昇華させているのが魅力的。
売れっ子、山下監督の見事な演出!
山下監督は今年、カラオケを通して合唱部の中学生とやくざ者が触れ合う「カラオケ行こ!」に始まり、この作品の後も雪山の山荘で二人の男が殺し合う「告白 コンフェッション」(5月31日公開)、カンヌ国際映画祭の監督週間にも選出された久野遥子とW監督のアニメーション「化け猫あんずちゃん」(7月19日公開)と、目覚ましい活躍ぶりを見せている。その中でこの映画は、「リンダ リンダ リンダ」(2005)以来の女子高生を主役にした青春ものだが、特別なことが起こらない日常描写の中に女子高生の衝突や葛藤、心の歩み寄りを入れ込んで、それぞれのキャラを立たせている演出は見事。城定監督の「アルプススタンドのはしの方」は学校生活で“二軍”のポジションにいる高校生たちの心の共鳴を描いた秀作だったが、これは“性”を軸に女子高生の実感を、当事者の目線で映し出した作品として印象的。こういう高校演劇のリブート映画の企画は、今後も注目されていくのではないか。そんな可能性を感じる、見応えのある群像劇だ。 文=金澤誠 制作=キネマ旬報社
「水深ゼロメートルから」 5月3日(金・祝)より新宿シネマカリテほか全国順次公開 2024年/日本/87分 監督:⼭下敦弘 脚本:中⽥夢花 出演:濱尾咲綺、仲吉玲亜、清田みくり、花岡すみれ、三浦理奈/さとうほなみ 配給:SPOTTED PRODUCTIONS ©『⽔深ゼロメートルから』製作委員会
キネマ旬報社