“勉強で培った”精神力、走力が強み。OB監督の下、凡事徹底で成長の高知小津は1996年以来のインハイに挑戦
[6.15 四国高校選手権1回戦 高知小津高 0-2 四国学院大香川西高 香川県営サッカー・ラグビー場] 【写真】お相手がJ1選手だったと話題に…元アイドルの女優が2ショットで結婚報告 久しぶりの四国大会に挑んだ高知小津高(高知1)だったが、四国学院大香川西高(香川西2)の注目FW玉田滉喜(3年)を止めることができず、前半のうちに2失点。後半は無失点に抑えながら、3本のシュートを放つなど巻き返しを図ったものの、最終スコアは0-2。 初戦敗退に終わったが、寺尾拓監督は「うちのルーツを辿っていけば、香川西さんとやるようなレベルではない。中学からサッカーを始めた選手もいるぐらい。チームとしてもプリンスリーグと県リーグ下位のチーム。インターハイに向けて通用しなかった部分、できたことが分かって良かった」と前を向いた。 インターハイで全国ベスト8に入った経験を持つ高知小津だが、近年は芳しい結果が残せておらず、全国大会への出場は1996年大会以来6回目。昨年、指揮官として母校に戻った寺尾監督は「就任したばかりの頃は、サークルのようだった」と振り返る。 県内上位の進学校ではあるが、練習や集合時間のギリギリで訪れる選手がほとんど。それなのに時間にルーズな主力選手が、試合に出場するメンバーも決めていた。県1部リーグも大敗する試合が目立ち、寺尾監督就任前年の2022年はわずか4勝に終わり辛うじて残留。前任の高知西高を率いた一昨年まで選手権に2度出場し、プリンスリーグ四国にも在籍していた寺尾監督にとって物足りなかったのは間違いない。 チームの再浮上を目指し、寺尾監督はピッチ内外の見直しを図る。ピッチ外での当たり前の基準を求めるため、準備、後片付けなど凡事徹底の大切さを問い続けた。メリハリなく長時間続けていた練習にもメスを入れ、1時間弱に変更。短い時間で選手に個人戦術を植え付け、強度も求めたという。 「サッカーを頑張るつもりで、この学校を選んだわけではない。厳しすぎる」。そうした保護者からのクレームもあったが、勉強で培った集中力はあるため、選手たちに短い練習は向いていた。「公立中学出身が多く、これまでしっかり練習をしていなかっただけでスポンジのように吸収してくれた」(寺尾監督)。練習時間がコンパクトになったおかげで、これまでよりも早く帰宅できるようになり、勉強の成績も上がっていったという。 これまでは大学受験に備えて、夏で3年生が引退してきたが、昨年はサッカーの楽しみを知った主力の7人が冬までチームに残留。選手権は2回戦敗退で終わったが、県1部リーグを4位で終え、チームの土台を作るには十分すぎる初年度となった。 迎えた今年は「平均値が高いけど、突出した選手がいない代」(寺尾監督)。インターハイ予選の組み合わせが決まり、昨年、全国ベスト8まで進んだ高知高と準々決勝で対戦すると分かった際は、「負けても仕方がないと思っていた」と振り返る。実際、4月に県1部リーグで対戦した際は一方的に押し込まれ、1本もシュートが打てないまま0-2で敗れていた。 だが、蓋を開けてみると格上の高知と互角の戦いを演じ、PK戦で勝利。決勝も昨年度の選手権出場校である明徳義塾高を無失点に抑え、再びPK戦で大金星を奪って、全国大会出場を手にした。 決して楽な試合展開ではなかった。日程も準々決勝から決勝まで3連戦だったが、走力と精神力で相手を上回った。練習時間は短く、グラウンドの全面を使えるのは他の部活との兼ね合いで週2回だけ。それでも、勝利を引き寄せた理由について寺尾監督はこう明かす。「選手は普段から課題をこなし、1日中、模試を受けているし、補習も多い。『君たちは嫌なことを文句も言わずにやっているじゃないか。それだけで精神力が強いはずだよ』、『走れるよ、やれるよ』と言い続けた」。 全国大会に向けて、四国大会からまた新たなチーム作りは始まっている。本職不在のため、2年生からGKに転向し、県予選ではPK戦での勝ち上がりを支えたGK岩崎素宙(3年)が引退を決意。昨年からキャプテンを務めてきたMF横谷隼人(3年)は、早生まれとして挑んだ昨年の国体に続く全国大会出場を決め、サッカーをやり切った達成感からチームを離れた。2人はサッカーで手にした経験を活かし、入学時から希望していた大学への合格を目指す。 主力の一足早い“卒業”は、チームにとって大きな痛手だったが、県予選後の県リーグ再開初戦は明徳義塾に1-0で勝利。「勝てずに“主力が抜けたから”と言われるのは嫌だった。ターニングポイントで勝負強さを発揮できている」と寺尾監督は胸を撫でおろす。1年生にはJクラブのアカデミー出身選手やクラブチームでサッカーに励んできた選手など実力者が揃う。選手権まで残る決断を下した3年生には、技巧派ボランチのMF山本滉太、FW一色真慧、DF柴田翔朱といった実力者がいる。GK松本涼太(1年)、FW大川哲平(1年)らすでにスタメンを張る下級生が融合すれば、楽しみなチームに仕上がるだろう。 全国大会の顔ぶれを見るとお世辞にも上位に入れるチームとは言えない。ただ、前回大会で高知がベスト8まで進んだおかげで、シードとして2回戦からの登場になるのは追い風だ。「相手は1回戦からの連戦なので疲れてくれていると嬉しい。うちは直接福島に入ることで怪我人や体調不良を出さず、フレッシュなまま大会に挑んで勝ちたい」。寺尾監督は県予選同様、虎視眈々と番狂わせを狙っている。 (取材・文 森田将義)