浅丘ルリ子が語る「男はつらいよ」と昭和の思い出…山田洋次監督に「このメイクは絶対変えたくない」と直談判も
渥美清氏主演の国民的人気映画「男はつらいよ」。そのシリーズに、旅回りの歌手でマドンナの“リリー”役で計5作品に出演したのが浅丘ルリ子だった。出演したのは、第11作「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」、第15作「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」、第25作「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」の3作品が2024年1月1日(月)~1月3日(水)にかけてBS松竹東急(全国無料放送・BS260ch)で夜7時から放送される。あわせて、浅丘ルリ子がゲスト出演する「ジョニ男のぶらぶら昭和。新春スペシャル」の放送も1月1日(月)夜9時からあり、浅丘が当時を振り返って思い出などをじっくりと語る。今回、番組収録直後に浅丘にインタビューを行い、「男はつらいよ」の魅力、演じた“リリー”への想いなどを映画のロケ地でもある葛飾・柴又で聞かせてもらった。 【写真】若かりし浅丘ルリ子の美貌、妖艶な魅力のリリーさん ■“リリーさん”誕生秘話…山田洋次監督に直談判 ――ジョニ男さんの特番の収録が終わりましたが、いかがでしたか? ジョニ男さんは初めてお会いしたのですが、すごくダンディな方で、楽しくお話しができました(笑)。久しぶりに「男はつらいよ」についてインタビューしていただきました。 ――収録とこの取材も、「男はつらいよ」にゆかりのある“葛飾・柴又”で行っていますが、柴又に来られるのは久しぶりですか? 「寅さん記念館」が出来た時に来て、それが2019年なので4年ぶりくらいかしら? この高木屋さん(高木屋老舗)は有名なお店ですし、お団子も食べさせていただいたこともありましたので、今日また来られるのを楽しみにしていました。 ――そんな「男はつらいよ」シリーズの浅丘さんが演じた“リリー”さんが登場する3作品が2024年1月の3が日にあるということで、今回の特番も放送されるわけですが。 すごく嬉しいです。まとめて放送されることもなかなかないことだと思いますし、この特番もあわせて、たくさんの方に見ていただけたらいいなって思いますね。私も見ます(笑)。 ――演じられたリリーさんは、浅丘さんから見てどんな人物ですか? 私に似てるんです。自分に近いキャラクターなので、すごく演じやすかったですね。実は、最初にお話をいただいた時は違う役でのオファーだったんです。 ――え?そうだったんですか!? 最初は北海道の牧場のおかみさん役だったんです。だから山田洋次監督に申し上げました。「山田さん、この細い手と体つきで、毎朝バケツを持って広い牧場を行ったり来たりするのは私に合いますでしょうか? 私、このメイクは絶対に変えたくないです」って。そうしたら山田さんが「ちょっと待ってください。一週間、時間をくれませんか」とおっしゃってくれました。それで、山田さんが釧路に行った時、町中「今日の出演:リリー松岡」という張り出しとその方の写真を目にして、「カバン一つ持って、あちこちの街を歩いている売れない歌手みたいなキャラクターというのもいいかもしれない」って思ったそうで、それを私に話してくださったんです。「こんなに嬉しいことはありません!」ってお返事しました。 ■今すぐにでも演じられる、リリーさんは私の中に今もいる ――浅丘さんにとって“ハマり役”となったリリーはそういう経緯があって生まれたんですね。 そうなんです。リリーさんは私に似ていて、寅さんにも言いたいことが言えるキャラで何の無理もなく演じられるって思いましたし、実際、自然に演じられました。ありがたいことに1作目が好評で、山田さんはすぐに2作目を考えてらして、3作目、4作目も作ってくださいました。そんなふうに何作も出させていただいたことや、リリーさんという役に出会えたことも全部、神様が引っ張ってくださったんだと思うんです。 ――“リリーさんに似ている”とおっしゃってましたが、もし、今すぐリリーさんを演じてくださいと言われたら。 すぐになれますよ(笑)。リリーさんは私の中に今もいますからね。なんだったら今日のこの衣装でもいいんじゃない? あ、でもリリーさんは全部が整っている服装じゃないんです。何か一つ外れてるような服の選び方をしていました。 ――リリーさんの服装やアクセサリーも目立っていましたし、印象的でした。 あれは全部私が決めてました。山田さんは、服もアクセサリーも全部、私に関してはお任せしてくださっていました。“メロン騒動”(「男はつらいよ 寅次郎相合傘」での、メロンをめぐっての一悶着)のセリフなんてすごく好きですし、本当にやりやすかったんです(笑)。 ――リリーさんが多くの方に愛されている理由は何だと思いますか? 寅さんに自分たちが思っていることをハッキリ言ってくれるところだと思います。さくらちゃん(倍賞千恵子)の旦那の博さん(前田吟)が「僕も一回そう言ってみたかったんですよ」って言っていたり、おいちゃんも「スッキリしました」って言っているので、寅さんに物申したい時が何回もあったんだと思うんです。何回言っても言うことを聞かないので諦めてたところをリリーさんが言ってくれたというので、皆さんに認めてもらえたのかなって。もちろん、山田さんが脚本にそういうセリフを書いてくれたから言えたわけです。そういうスッとするセリフがあったり、心に残るセリフがあったりするので、寅さんシリーズの作品は私にとって宝物です。 ■残したい昭和の美徳は「人情」「人とのつながり」 ――寅さんを演じた渥美清さんはどんな方でしたか? 普段はあまりお話しになられない方なので、実は個人的にお話ししたことはほとんどないんです。でも、それは撮影で、作品の中のセリフの一言一言を大事にされているからなんです。 ――「男はつらいよ」を見ていると、昭和の時代の文化が見えてきますし、見ていて懐かしく感じる人も多いと思います。若い世代の人たちには新鮮に感じると思いますし。 そうですよね。昭和の良さを感じてもらえたらという気持ちもあります。例えば、映画の中でもそういう場面が出てきますけど、何かをしてもらったら自筆のお礼の手紙を出したりしますよね。そういった慣わし、風習などは今でもあって欲しいなと思います。メールとか便利になった今でこそ、お手紙の良さがより伝わるんじゃないかと。あとは“人情”ですね。今も柴又とかに来ると人情をすごく感じます。こんな感じで今もあるものだと思いますけど、作品を見て、人とのつながりや人情を感じてもらえたら嬉しいです。 ――2024年は元日から3日間、リリーさんが登場する「男はつらいよ」が放送されるということで、幸先のいい年になりそうですね。 本当にそう思います。新しい年の始まりに放送してくださるのが嬉しい。今回、取材を受けるということで、出演した作品を何度か見返しました。何回見ても面白くて、今も新鮮に感じました。きっとこのシリーズを嫌いだという人っていないと思うんです。なので、お正月に家族とか仲の良い方たち、みんなで見ていただけたら嬉しいです。 ◆取材・文=田中隆信