ロッテのスーパールーキー佐々木朗希が語ったマー君への憧れと「日本一投手になるために必要なこと」
佐々木を心の底から痺れさせたのは、くしくも自身の12歳の誕生日だった11月3日に行われた巨人との日本シリーズ第7戦だった。3-0で迎えた最終回のマウンドに上がったのは、前日の第6戦で160球の完投も及ばずに、シーズン公式戦で初めて黒星を喫していた田中だったからだ。 「何て言うんですかね。完投した次の日に投げたこともすごいんですけど、気持ちとか、同じピッチャーとしてすごく尊敬できます」 実は、この連投は、故・星野監督へ訴えた田中の志願登板だった。球団創設9年目で初の日本一を獲得。雄叫びをあげた田中はレギュラーシーズン、CSを含めたすべてで胴上げ投手になっている。 エースと呼ばれる男だけが身にまとうオーラ。連投も辞さないタフネスさと闘志。大船渡第一中学、そして大船渡高でエースを拝命してからは、レギュラーシーズンで先発した27試合すべてで6イニング以上を投げ、自責点3点以下に抑える、いわゆるクオリティースタート率で100%を達成した2013年の田中がいかに突出していたかがあらためて理解できたのだろう。 岩手県出身の佐々木にとって、宮城県をフランチャイズとする楽天が、本拠地・日本製紙クリネックススタジアム宮城(現・楽天生命パーク宮城)で成就させた悲願の日本一は、悲しみを乗り越えて復興へ進んでいく勇気と希望を与えたはずだ。
その中心で代役のきかない存在感を放った田中は、沢村賞やMVPを含めたタイトルを独占して、翌年から戦いの舞台をMLBに移している。憧れの気持ちを抱きながら、以来、田中の象徴だった黄色いグローブを愛用してきた佐々木は、新入団選手発表会で7人がそれぞれ披露した、プロでの目標を求められた真っ白なパネルに「沢村賞」とひときわ大きな文字で書き込んだ。 「日本一のピッチャーになるために、日々の練習を頑張っていきたい。僕のアピールポイントはストレートだと思っているので、ストレートだけはどの選手にも負けないように、しっかり磨いていきたい。ただ、一球だけいいストレートを投げてもしょうがないので。いいストレートを安定して投げられるように、下半身だけでなく、上半身も必要な部分をしっかりとトレーニングしていきたい」 昼食をともにしたときに、ドラフト会議後の練習内容を含めて、佐々木とさまざまな会話を交わした井口監督は「だんだんプロの顔に変わってきている」と、新入団選手発表会後に目を細めた。 「キャンプへ向けてしっかりと身体作りをしてくれている。即戦力で頑張ってほしい選手もいるし、いずれロッテを背負っていく選手もいるなかで、次に会う来月の合同自主トレが非常に楽しみです」 キャンプにおける一軍と二軍の振り分けは、新人合同自主トレやその後のコーチ会議をへて決まる。佐々木の場合は、おそらくは井口監督をして「いずれロッテを背負っていく」と言わしめた選手の象徴として、プロのプレーに耐えられる身体作りからスタートするはずだ。それでも、日本球界最速の170kmのストレートを投げてほしい、という期待とともに「17番」を託された18歳に焦りはない。 「まずはしっかりと身体作りをして、焦ることなく、球速に関してはあまり気にせずに、ピッチャーとして成長していく過程で(170kmを)投げられたらいい、と思っています」 新入団選手発表会では絶対に負けたくない、同年代のライバルも問われた。自身が出場できなかった夏の甲子園の準優勝投手で、ドラフト1位で東京ヤクルトスワローズ入りした奥川恭伸(星稜)の名前を迷うことなくあげた佐々木は、こんな言葉を紡いでいる。 「やっぱり奥川君は、この学年で一番いいピッチャーだと思っているので」 実は奥川も憧れの存在として、田中をあげている。くしくも2人そろってメジャーでも眩い存在感を放つ、田中の背中を追いかけるかたちで幕を開けるプロ人生。ルーキーイヤーでも黄色いグローブを使うのか、と問われた佐々木はちょっぴり声のトーンを下げながら首を縦に振った。 「多分……」 シャイな素顔と、大きな期待を託したくなる無限の可能性。それでいて「頑固というか、こだわりが強い」と自己分析する性格を身長190cm体重85kgの恵まれたボディに同居させながら、令和の怪物が紡ぐストーリーが新たな章へと突入していく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)